第五話 くらしの中で
希望 その1
これまで何度も何度も大変なこと、それも長期に亘る事態を乗り越えながら先に希望を見つけて年月を重ねてきた。これを人生の谷と言えるかどうか、平地にいたときのほうが少なくて、谷底に身を潜めていた年月のほうが長かった気がする。
私の出生そのものが正道から外れた谷底で産まれたものである。
母親はそのことに気付いてか気づかずにか、私を堂々と育てて、一人子供を産んでいて良かったと言いながら長寿を全うした。
満年齢96歳で安らかな眠りに就いたのである。
作品名:第五話 くらしの中で 作家名:笹峰霧子