天界での展開(4)
「俺は、そんなの嫌だね。俺は、何の力など無くても良いから、兎に角食べたい時に腹いっぱいに食べて、眠りたい時に眠れさえすれば気楽で良い。それにだな、一度に多くの事が考えられない質なんだ。それどころか、ひとつの事を考えていても、次々と目の前の出来事などが気になってしまうから、つい、目新しい方へ身体が動くんだな。」
「そうか・・ それで、サルと一緒に歩いていた時に、この桃園が気になって、つい入ってしまったというのか?」
「いや、それは違う。この美味しそうな桃で空腹を満たそうとしたんだ。ただ気になっただけではない。食べる気満々で入った。」
「この園が、如何なるものであるのか知らずに入ったと言うのだな?」
「何をクドクドと訊いているんだ? あんた、押し出しは良いが、見た目に反して少しだけ頭が悪いんじゃないのか? 良いかい、桃とか梨とかいうものはだな、本来食べる為に育てるのだろ? その食べる為のものを食べたところで何が悪い? 分別の無い子どもじゃあるまいし・・俺はそこまでのバカじゃない。だた、ひとつだけはあんたの言う通りだ。持ち主が居るだろう事は入った後から考えないでもなかったが、この桃園がそれほどに大事な処だとは知らなかった。」
「・・・はっはっは・・・ バカにバカ呼ばわりされるとは、このわしも焼きが回ってきたかのぅ。権蔵、もう話す事もない。お前の心根など既に見えておる。お前は、少々他人と変わった処はあるが、正直さに於いては人間界随一・・いや、随一は言い過ぎじゃが、欲得ずくで桃を食べたのではないのは間違いない。すぐに此処を出て閻魔の元へ行くが良い。本日、お前が犯した罪は、この毘沙門天がお構いなしと致す。但し、今後、断りもなくこの畑を荒らすでないぞ!」
「分かりましたぁ、ありがとう。・・ところで、此処の桃をひとつだけ頂いても構いませんか? 俺の新しい嫁に食べさせてやりたいのですが・・」
「何、嫁だと?」
「はい、そう。それが生前の嫁と違って若くて、美人というタイプじゃないけれど可愛い嫁さんなんですよ。へへへ・・」
「いきなりボ~~っとして、気持ちの悪い笑い方をするでない! 一体、何をどの様に考えておるのじゃ・・」
「何をどの様に って、毘沙門さん、こういった場合、男の考える事はほぼ決まってるでしょう。」
「・・・・ 兎に角、早う消えてしまえ!」
「は~い、じゃあ失礼しま~~す。」
「・・・・まったく、こちらまで調子が狂ってしまうわ・・」
「あのう・・こんにちは~again・・」
「ん? あ、また戻って来たのか。今度は、何じゃ・・?」
「何じゃ と問われるから話すんだけどね、ちょいと忘れていたんだ。」
「一体、何を?」
「あのですね、ちょいと不思議に思ったんだけどね・・・・・・・・」
「何じゃ、早く申せ・・」
「あのね、昔、あんた、戦いで傷付いたと言ったよね?」
「おう、言った。」
「その時の事だけどね、あんたが傷付いたのは頭じゃないよね?」
「右足二か所と脇腹の負傷であったが・・」
「そうかい。良かった~~・・ いや何ね、あんたが頭でも負傷して正常な考えが出来なくなっているとしたならですね、俺は、話すのを止そうかと思ったんだけどね、でも、もし負傷した処が頭以外で正常な考えが出来る状態だとしたなら話してみようかな~と思って引き返してきた。」
「長ったらしい前置きは良いから・・」
「その負傷した時にも、あんたに桃を食べさせるかどうかを天界常任委員会で話し合ったんだよね?」
「その様に聞いておるが・・」
「それが確かなら、あんたに桃を食べさせる必要が無いと思った委員が半分以上居たって事だ。あんた、自分が思ってる以上に、案外敵が多いんじゃないかと思ってね。気を付けた方が良いよ。」
「・・・・」
「俺はな、俺と同じ様な造りの頭を持った人の事は手に取る様に分かるんだ。理由は?と訊かれると応えられないけどね。・・まあ、そういうこと。じゃあね・・」