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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
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死別(おしゃべりさんのひとり言 その93)

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心臓の手術により、急に血流がよくなったので、血管中に溜まっていたプラーク(脂肪カス)が脳に回って、重度の脳梗塞を発症してしまったそうです。
そしてまた私は覚悟をしましたが、父を再び歩けるようにするべく、リハビリで実績の高い病院を探し、そこに転院させました。
そこで父はよく頑張りました。固まった体を動かすのはとても痛いそうですが、看護師も感心するほど、父は毎日リハビリに励んだそうです。
2年かかりましたが、何とか物に掴まりながら歩行できるまでに回復しました。このリハビリ期間中にした検査で、父の病名がはっきりしました。それまで様々な症状で混乱していましたが、結局のところ父はメニエル病でした。そしてその薬を処方してもらってから、父の状態は急に良くなり始め、実家に戻ることができました。
しかし、実家は築120年の古民家です。身体に障害が残る父が、普通に住める家ではありません。
しかも町の歴史保存の対象住宅になっていて、手続きに時間がかかり、どの業者もすぐに改築できないのです。以前トイレを水洗にするにも2年かかったほどです。なので私が無断で改築しました。DIYでです。この際、どこをどう改築したかは言えません。とにかく出来るだけバリアフリーにしました。
あれから10年以上経ちますが、今も父はベッドから起きたら、椅子に座ってお菓子を食べながら、テレビを見る毎日を続けています。
私もそのことに関しては、少し平穏な日々を過ごすことが出来ています。あれだけ心配して、覚悟も繰り返してしてきたのに、意外にしぶとい父でした。


そして先日、ある方の悲報を聞いて、死別ということに向き合う覚悟の重要性を、再び感じました。
その方は、私の元部下(何度も私の小説やひとり言にも登場している姉妹)のお父様です。
体調が思わしくなく入院されたというのは、お姉さんから聞いていました。その心配を涙ながらに語る彼女を励ますことは当然ですが、それから5か月ほど、気になっていても、こちらから連絡するのを躊躇って、他の知り合いから情報を得たりもしていました。

それが先週、ふとそのお父様のことが気になって、連絡してみようかと思っていた時、妹さんから電話がありました。
お葬式まで終えられて、一段落したとのことでしたが、その声にはいつものような力は無く、まるで別人かと思えるような話しぶりでした。その時私は仕事中でしたが、周囲の目を気にしながらも、そのまま約1時間半ほど話しました。そうするべきだと思ったからです。
私には彼女を励ますようなことはできません。むしろその悲しみを受け止めてあげて、ともにお父様の死を悼むこと。・・・それがちゃんと出来ているのかも判りませんでしたけど。
彼女の口から出てくるのは、「この局面に立って初めてお父様の偉大さに気付いた」という言葉でした。しかしながら、病床にいる相手に、今更そのような言葉を口にするのは、覚悟をしてしまった証明になってしまうので、憚られたそうです。
私自身、自分の父のすごさを知っていても、あえて口にするようなことはありませんでしたが、日頃よりその気持ちを伝えておくことの大切さに気付かせていただきました。
その電話の後半に、たまたまお姉さんが妹さんのところに寄られ、電話口にも出られました。やはりその声も普段の彼女ではありません。妹さんよりお父さんっ子だったことを公言されていましたので、とても辛そうにしているのに、何も言葉をかけてあげることができませんでした。こんな時、言ってはいけない言葉や、相手の意に反する言葉を避けたりするのは当然ですが、そんなことで言葉が出ないのではなく、彼女のあまりにも焦燥しきった雰囲気に、私の口から出るどの言葉も、今の彼女に対しては何の意味もなさないと思ったからです。
そのまま、しんみりした雰囲気で電話は切りました。彼女たちに対して、私自身の器の小ささを実感しました。

しかしその2時間後、遅れた仕事の残業をしていると、またお姉さんから電話がかかってきました。
「さっきはすみませんでした。母とちょっと言い争いしていたので、あんなテンションでした」
と、いつも通りの彼女。
「今日、病院に行って来て、赤ちゃんのエコー写真をもらって来たんです」
「???」(どういう状況?)

実は彼女は、ずーっと不妊治療を続けていたのです。妹さんは退職後すぐに男の子を出産されましたが、お姉さんは病気で妊娠が難しい体だと、5年くらい前から聞いていました。
それがお父様が亡くなる間際に、妊娠検査薬でついに陽性反応が出て、口頭で妊娠したことを報告出来ていたとのことでした。
それでこの日、産婦人科でエコーで診てもらって、わずか1センチほどの新しい命を確認してきたそうです。本当はお父さんにこの写真を見せてあげたかったそうですが。
それを聞いて私は、お父様の葬儀の翌日で、何と言うべきか悩みましたが、彼女に対しては、この言葉はずーっと言いたかったので、
「本当によかった。おめでとう」と伝えました。


     つづく