ダンスフロア
うららかな午後。濃密な本の匂い。昨日と何も変わらないこの部屋にも、何もかもが変わってしまう瞬間は来る。彼らは箱から飛び立っていき、私はこの本まみれの箱の中から彼らを見送る。変わらずにこの部屋に訪れ続ける「明日」に、彼らの姿はもうない。
今日は卒業式だった。
卒業式後、みんなが別れを惜しむ中、山田さんが谷部君に駆け寄り、両手で彼の右手をしっかりと握って何か言ったのを見た。何を言ったのか、山田さんが大人になったら聞いてみよう。
三月の風に思いをのせて、私も彼らに「さよなら」を言う時が来た。それでもそれは「別れ」とは違う。
「先生、矛盾してますよ。」
山田さんが今にも突っかかってきそうだ。
忘れがたく、そう思っていながらも忘れてしまうことが人生には多すぎる。だから、文字というものに、物語というものに残そう。彼らとの出会いを、交わした言葉を。彼らのためかもしれないし、私自身のためかもしれない。誰のためでもいい。いつか、ここにいた誰かの、ここにはいない誰かの胸を震わせる可能性があるのならば、私はこれからも、世界を言葉で紡いでいこう。
三月の午後の澄んだ青空の下、涙と笑顔の混じり合う喧騒から少し離れた場所で、私はそっと、彼らと私と、そして、かつて十五歳だった私に誓った。
おわり