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星に願いを:長門 甲斐編

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備前



「僕等の「道」に入るなんて消滅(しに)たいの?」

仄かな街路灯の下(もと)
塗装道路に「大」の字で寝転がる和泉を仁王立ちで見下ろす、「影」

「?「道」?」
「??「道」??」

眼前(がんぜん)、瞬く星星を追い掛けては眼の玉を巡らす
和泉へ歩み寄る上総が「影」に声を掛ける

「今晩は、備前(びぜん)」

「今晩は、上総(かずさ)」

社交辞令、挨拶をし返す「影」は毎度の事だが思う

何故、眼の前の此の「悪魔」は人間の真似事をするのか
何故、眼の前の此の「悪魔」は

「あれ?」
「良く「僕(備前)」だって分かったね」

「計画通り」と、言わんばかり
頗(すこぶ)る笑顔を浮かべている相手(備前)に指摘する

「豊前(ぶぜん)は笑わない」

其れに余所の「悪魔」を罠に掛けるような真似はしない
其れでも罠に掛かる「悪魔」等、然う然ういない

和泉を選んだのか
備前を選んだのか、何れにせよ厄介事だ

「ああ」
「確かに「豊前」は笑わないね」

「そう云う上総も」と、言い掛けるも止(と)める

然(そ)うして上総の手を借りて身体を起こす「悪魔」を見遣る

其の眼と眼が搗(か)ち合った瞬間
備前に飛び掛かるように立ち上がる和泉が吠え出す

「!!貴様!!」
「他人様の頭を搗(か)ち割る勢いで殴っておいて謝罪もないのか?!」

胸倉を掴まれるも余裕綽綽(よゆうしゃくしゃく)
藤黄(とうおう)色の前髪を流す備前が吐き捨てる

「「謝罪」?」
「謝罪をするのは御前の方だよ」

「?!あん?!」

和泉の背後
既に傍観を決め込む構えの上総を顎で指す

「上総に聞いてないの?」
「余所の「悪魔」の「道」に入るな、って」

散散、聞かされた
其れこそ耳に胼胝(タコ)が出来る程、聞かされた

当然、場都合が悪いが

「!!だが!!」

上総相手では出来ない反論を眼の前の「悪魔」相手に展開する

「別に良いじゃないか!」
「「道」等、減る「モノ」でもあるまいし!」

「減る「モノ」だよ」

「?あん?」

「「道」は減るんだよ」

言葉の綾(あや)が真逆(まさか)の正解とは思わず
言葉の出ない和泉を余所に備前が上総に向けて首を傾げた

丸(まる)で「言ってないの?」と、問い掛ける

「減るのは「契約」だ」

「道」は「道」ではない
「道」は「契約」に向かう「道」だ

其れこそ「契約」は底無し
完了する側(そば)から次次、「道」が通される

「道」を各各、平等に均等に割り付けた結果

自分達に割り付く「道」が存在するように
当然、自分達以外に割り付く「道」が存在する

問題なのは「道」は「契約」に向かう唯一の「道」だと云う事

「道」に足を踏み入れた
「悪魔」しか「契約」を完了する事が出来ないと云う事

「和泉が足を踏み入れた「道」」
「備前は其の「道」の「契約」を一つ、失った計算だ」

抑、「契約」に成り得る「道」だったのか怪しいモノだ
と内心、覗(うかが)う上総の言葉を引き継ぐ形で備前が言い放つ

「御前、如何責任を取るつもりなの?」

漸く上総の(耳胼胝)話
取り返しの付かない事態だと把握した和泉は大いに慌てる

「備前」とやらの怒りも当然だ
己(おのれ)の仕事を横取りされれば誰でも怒髪天を衝くだろう

沈着冷静の上総でさえ
新人の時分には顧客確保に焦っていたと暴露していた訳だし

先程の耳胼胝話を思い出す

あん?
「道」は次次、通されるんだよな?

なのに「責任」だ?
なのに「顧客確保」だ?

此処に来て自分に甘い性格が出るも直ぐ様、考え直す

否否(いないな)、今は其の事は関係ない
明らかに悪さをしたのは誰でもない、自分自身なのだ

「其、其れは済まん」

頭を下げた和泉を前に北叟笑(ほくそえ)む備前だが
其の背後に控える上総が謝罪を述べた瞬間、心境は一変する

「俺の顔に免じて許して欲しい」

何(ど)の道、此れは茶番だ
無能な頭等、幾らでも下げて遣る

「計画通り」ではなくなった所為(せい)か
戸惑いを隠そうともしない備前が浮足立つ

「?!え?!」
「え?!、上総、馬路?!」

途端、一回転して周囲を見回す

「危(やば)い!、危(やば)い!」
「此の状況、豊前に誤解される!」

「否否(いやいや)、誤解も何もないだろ?」
等、突っ込む和泉と上総が頭を上げれば其処には、もう一人の「備前」がいる

黒衣の外套に纏う雰囲気こそ異なるが
姿形も寸分なく「備前」と瓜二つの顔を持つ、「少年」が佇んでいる

其の、形の良い唇が剥がれるように開く