星に願いを:長門 甲斐編
「見逃してやる」とは言われていないが
好い加減、尻尾を巻いて逃げたい自分とは裏腹
血気盛ん、「死神」に眼(ガン)垂れる
和泉の肩に手を掛けた上総が一歩、後退(あとず)る
「?!あん、あん、ああん?!」
即座に声を荒げる、不満げな和泉同様
「死神」も如何にも反応が悪い、上総の態度に唇を尖らす
「時」の流れは残酷だ
彼(あ)の夜のように遊びたいのに(泣)、等(など)憂いつつも
生憎、玩具(おもちゃ)は「君」だけではなさそうだ、と矛先を変えた
「徐徐(そろそろ)、尻尾を巻いて逃げたい?」
「餌」を投げる
見え見えの「餌」を投げる
「君」は食い付かない、けど(笑)
案の定、「制止」の腕を振り払う和泉が勢い良く食い付く
「然(そ)うだ、上総!」
「貴様は馬鹿にされたままで良いのか?!」
殺し切れない落胆の溜息を漏らす
上総を余所に「無敵状態」の和泉は何処迄も突っ走る
「其れに貴様!」
再び、「死神」に指を差す
先程とは違い、人差し指が完全に鼻先に減(め)り込んだ
若干、痛がる「死神」
「貴様は晴れて「肉体」を手に入れたのではないのか?!」
「何故に又、「死神」に成り果てている?!」
見事、「餌」に食らい付いたと喜んだのも束の間
真逆(まさか)の説教 仕様(モード)に眼を白黒させるも口角が上がる
「抑(そもそも)、」
と、和泉は言葉に詰まる
「自殺」という単語(ワード)に和泉は言葉に詰まる
言うのが良いのか
言わないのが良いのか
飽くまで待つ「死神」が手持ち無沙汰、耳穴を穿(ほじく)る程度
考えた結果、言わない決断をした
「何故、「転生」を望む?!」
「頗(すこぶ)る我儘(わがまま)だぞ!」
自ら命を絶つ「人間」は輪廻から外れる
然(そ)して延延、「魂」を回収する側の「死神」となり輪廻に戻る機会を待つ
何故に「絶つ」のだ?
何故に「待つ」のだ?
自分にも上総にも分からない
目の前の「死神」には分かるのだろう、思う和泉は問い質す
然(しか)し今度は「死神」が言葉に詰まる番だ
何と「答え」れば良いのか
其れとも「答え」等、知らないのか
内心、突っ込むも上総は一貫して傍観者だ
「然(そ)うだね、頗(すこぶ)る我儘(わがまま)だね」
軈(やが)て「天使」の微笑みを湛(たた)える
何とも安易に同意した「死神」に納得いかない和泉は更に詰め寄る
大慌てて手の平を向けて両手を挙げた「死神」が
「御仕舞(おしまい)」
と、告げる
「?御仕舞(おしまい)?」
鳩が豆鉄砲を食ったような顔で鸚鵡(オウム)返しする
目の前の顔に吹き出すのを堪(こら)えて頷く
「然(そ)う然(そ)う、御仕舞(おしまい)」
「僕は帰るよ」
「死神」の台詞(せりふ)に是又(これまた)和泉が聞き返す
「帰る?」
「帰るって、帰って良いのか?」
たった今迄、上総以上に蚊帳の外だった
寝台(ベッド)で引っ繰り返ったまま動かない長門(契約者)を見遣る
和泉に釣られて「死神」も見遣る
見遣るも
何も言う気はないのか
何も遣る気はないのか
「然(そ)う、帰る」
「何しに来たんだ?、貴様」
露骨な程、無配慮に指摘されて大笑いする
「死神」が笑い過ぎたのか、涙で滲む目尻を拭いながら点頭する
「確かにね」
「僕、何しに来たんだろ?」
「此方(こちら)が訊いている」と、言わんばかりに顎を突き出す
和泉の背後、未(いま)だ警戒を解かない上総に眼線を向ける
「強(し)いて言えば、君に会いたかったのかも?」
何処に居ても
何時に居ても「簡単」に見つけ出せる
其れを証明して
其れを証明して安心したかったのかも?、って疑問だ
「「僕」も「僕」が分からない」
然(そ)う思うも
然(そ)う合点がいく「死神」が漸(ようや)く和泉の質問に答える
「自ら「死」を選ぼうが」
「「生」きる事に絶望した訳じゃないんだよ」
『何故か
あたしは希望を知っている』
「彼女」の記憶が
「彼女」だった記憶が朧気(おぼろげ)だが差し込む
「でなければ「死神」に成り果ててまで遣り直そうとは思わないんだよ」
徐(おもむろ)に身を屈める「死神」が
寝台(ベッド)で引っ繰り返ったままの長門に私語(ささや)く
「「生」きたら「死」ぬ」
「「死」んだら「生」きる」
「其れで良いよ」
「其れだけの話しだよ」
飛切りの笑顔で手を「ぱくぱく」、「死神」が別れの挨拶を噛ます
此(こ)の場の退場を見送る和泉が鼻息を荒くする
「「人間」の割には生意気な奴だ」
「「人間」ではない」
間髪を容(い)れず
自分の発言を正す上総を振り返る和泉が「ああ」と、手を打つ
「然(そ)うか、「死神」だった」
敢(あ)えて上総は何も言わない
答え合わせをした所で「和泉」は「和泉」
何処の「誰」が相手だろうが何等(なんら)、変わらないのだろう
此(こ)の夜、(改めて)其れが分かった
作品名:星に願いを:長門 甲斐編 作家名:七星瓢虫