星に願いを:長門 甲斐編
此処にきて隣に腰掛ける「人物」の顔を真面に見遣る
此処に来て部屋の片隅、窓に寄り掛かり立つ「人物」に気付く
多分、俺は麻痺している
感も
体感も麻痺して「日常」を感じる事が一苦労だ
黒羽色の髪
青鈍色の眼
寝台(ベッド)に腰掛ける、「人物」同様
外套(マントコート)を羽織る「人物」
抑(そもそも)、此の時期、外套(マントコート)を羽織っている事自体が可笑しい
抑(そもそも)、此の時期
枕元には冷暖房設備(エアコン)の遠隔指令機(リモコン)
「電源、入ってねえ」
此の手に取るも
改めて電源を入れる程、此の部屋は暑くない
寧(むし)ろ寒気がしてきた
消し忘れたのか
将又(はたまた)、目の前の「人物」が勝手に電源を入れたのか
其の程度の認識で
深く考えもしなかったが洒落になんねえ
明らかに「普通」じゃない
明らかに「人間」じゃない
其れでも
多分、俺は麻痺している
感も
体感も麻痺して「日常」を感じる事が一苦労だ
然(そ)して面白い事に「非日常」を感じる事も一苦労だ
「ああ、「悪魔」?」
漸(ようや)く思い当たる
手を打って納得した
自分に対して隣に腰掛ける「悪魔」が打(ぶ)ち切れる
「!!貴様、失礼だろ!!」
何に腹を立てるのか
首を傾げる自分に構わず切れ続ける「悪魔」の様子に
窓辺の「悪魔」が溜息を吐いた、ように感じた
「?!何故、私を見て「其の結論」に至らない?!」
隣に腰掛ける「悪魔」の言い分は斯(こ)うだ
俺は熟(つくづく)、窓辺の「悪魔」を眺めた結果
「其の結論」に至った、と切れた
単にやっかみか
「貫禄(かんろく)」がないのを俺の所為(せい)にするなよ
とは言え、其の紫黒色の眼を覗けば
貴方(あんた)も「悪魔」といえば「悪魔」なんだろうが
窓辺の「悪魔」は別格だ
覗いたら最後
覗いたら底の、底まで覗かれる
此処は掃き溜めの吹き溜まり
生まれも育ちも「此処」出身、危機回避能力には自信がある
自信がある?
自信があるのに今、俺は此の様(ざま)か?
笑えねえ
其れでも笑っていたのか
小馬鹿にされた、と勘違いした隣に腰掛ける「悪魔」が口を尖らせる
「何奴(どいつ)も此奴(こいつ)も!、人の気も知らないで!!」
如何した如何した
軽度の情緒不安定(メンヘラ)か?
「!!上総(かずさ)だって!!」
遂には窓辺の「悪魔」に噛み付くも
「名前を呼ぶな」
「?!あん?!」
「「契約者」の前で名前を呼ぶな」
いやはや無感情な声で遇(あし)らわれる
「契約者」って、俺?
「契約者」の俺に「名前」を知られるのは「御法度」って事?
見れば
然(さ)も言わずもがな、とばかりに指摘する窓辺の「悪魔」に対して
隣に腰掛ける「悪魔」は金魚のように口をぱくぱくしていた
若(も)しかして「暗黙の了解(初耳)」?
窓辺の「悪魔」の、何とも素気ない態度に
隣に腰掛ける「悪魔」が、何とも気の毒に思えてくる
「貴方(あんた)は貴方(あんた)で「悪魔」らしいぜ」
窓辺の「悪魔」が慰める気がないなら、と思ったんだが
其の感傷は如何やら間違いだったらしい
「?!本当か?!」
抱き付く勢いで反応する
隣に腰掛ける「悪魔」に思わず、其の身を退く
実際、其の身を退かなければ抱き付かれていたかも知れない
「何処が?!」
「何処が「悪魔」らしい?!」
「あん?、あん?」
「遠慮なく言ってみろ!、ああん?」
其れこそ紫黒色の眼を輝かせて詰め寄られ
「超ウザいんだけど・・・」と、窓辺の「悪魔」に助けを求めて見遣るも
「知るか」と、突き放す眼線を向けられて俺は後悔した
隣に腰掛ける「悪魔」に
「悪魔」らしい所等、一つもない
然(そ)して其れは窓辺の「悪魔」にも言える事だった
作品名:星に願いを:長門 甲斐編 作家名:七星瓢虫