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星に願いを:長門 甲斐編

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「「甲斐(かい)」なんて奴、知らねえし」
「でも此奴(こいつ)は俺の事、知ってんだよ」

爺様との一服を終えて、休憩所から出て来た弟が口を尖らせる

剰(あまつさ)え、「兄弟」だと衝撃告白(カミングアウト)されれば
何(ど)れ程、煙たくも自分に事情を聞きに来るしかない

「「長門(ながと)って、覚えてたの?」

「母親」は彼(あ)の日以降
「愛人」と、もう一人の「弟」の話題を一切、禁止した

「愛人」は彼(あ)の日以降も
「母親」と、自分と弟の事を話題に上げていたのだろうか

もう一人の「弟」に訊(たず)ねるも
もう一人の「弟」と関わる事になった弟の行動が気になった

「此処」は掃き溜めの吹き溜まり

誰も彼(かれ)もが真っ当な訳ではない
其れでも、誰も彼(かれ)もが不当な訳ではない

弟が不承不承、通う「学校」も然(そ)うだ

「「長門(ながと)」なんて、珍しい名前だし」

「珍しい名前?」
「御前が言うな」と、突っ込む弟に、もう一人の「弟」が笑い出す

「結局、挨拶してもしなくても絡んでくるじゃん?」

「!!矢張り、此の馬鹿!!」

もう一人の「弟」の言葉に遠慮なく蛇管(ホース)の水を打(ぶ)っ掛ける

「!!長門!!」
「!!堅気(かたぎ)に手出すな、って彼(あ)れ程!!」

見事、弟目掛け放水した結果
「携帯!、携帯!、馬路、携帯!!」
必死で変形学生服(ボンタン)の尻 衣嚢(ポケット)を押さえながら
身を捩る弟が弁明する

「!!ち、違え!!」
「!!俺は唯、此奴(こいつ)の名前が(知りたかっただけ・・・)!!」

然(そ)うして有ろう事か
浅ましくも、もう一人の「弟」の背後に逃れる
弟に舌を鳴らすが「まあまあ」と、和(にこ)やかに宥(なだ)められた

「愛人」も然(そ)うだったが
もう一人の「弟」も「事なかれ主義」のようだ

「そりゃあ!」
「呼び捨てにされりゃあ、睨み付けるだろ?!」

実際、呆れた教師が仲裁に入る迄、睨み付けた

「でもな」

濡れ垂れた前髪事、顔面を拭い上げる弟が吐き捨てる

「御前、退かなかったじゃねえか」
「御陰で「新参者」の御前の株は爆上がりだぞ」

好い加減、蛇管(ホース)の水を止めに行く
水栓柱の蛇口に手を掛けたまま「何だ其れ?」と、思うも納得する

其の一件で
もう一人の「弟」が「学校」で絡まれる事は二度とない

其れは其れで良かった
もう一人の「弟」は如何見ても、此の「層」を泳ぎ回れる気がしない

「だって、そっくりだったから」

然(さ)も楽しげに話す、もう一人の「弟」の言葉に振り返る

繁繁、目の前の顔を見上げる
もう一人の「弟」が当たり前のように半帽(ハーフヘルメット)を手渡す

其れを当たり前のように受け取る、弟は気付いていたのか

「何か」が足りない

其の、「何か」が分からないのに
其の、「何か」が足りない不思議な感覚

意気揚揚、背負った背嚢(リュック)から「何か」を取り出す
然程、大きくもない写真立ての「父親」

「父さんに」

「父親」に弟に、にっこり笑う
もう一人の「弟」は「愛人」そっくりの、笑顔だった

「愛人」が望んだのか
「甲斐」が望んだのか、何(いず)れにせよ

「母親」は草葉の陰で歯軋りしている事だろう

其れでも

此処で「幸せになる」か
此処で「不幸せになる」かは、もう一人の「弟」次第

取り敢えず「兄弟」だと御互い認識したのなら
と、自分が考えるよりも弟の発言の方が早かった

然程、大きくもない写真立ての「父親」を透かした顔で見下ろし
「俺の方がイケ面(メン)だろ」等、宣(のたま)った後

「御前が「弟」だろ?」
「此れからは「お兄ちゃん」である、俺に従えよ」

「え?」

「ああ、異議異論は受け付けねえから」
「此れ、決定事項だから」

もう一人の「弟」の鼻先、自身の顔を近付けては
自信満満、言い切る弟に間違いを正すべく真実を教えてやる

「長門」

「うん?」

此方を向く弟は成る程、「水も滴(したた)る良い男」だ
禄でなしの「父親」を反面教師にしたのか、浮いた話一つもないのは偉い

偉いが、流石に心配になる(笑)

「「後」だよ」
「御前の方が甲斐(かい)君より「後」に生まれてる」

同じ日
同じ病院

同じ父親を持つ、「半身(はんしん)」

間違いない

異母兄弟の赤ん坊を抱えた
「愛人」の手を引っ張って連れて来た「母親」が言った

「貴女(あんた)の、「弟」だよ」

寝惚け眼を擦りながら起き上がる
自分と共に和式敷布団の上で未(いま)だ眠る弟に言った

「長門」
「貴方(あんた)の、「お兄ちゃん」だよ」

当然、阿保みたいに目を剥く弟に
もう一人の「弟」が先程の、弟の言葉を此処ぞと計(ばか)りに繰り返す

「長門(ながと)が「弟」ね」
「此れからは「お兄ちゃん」である、僕に従ってね」

然(そ)して、もう一人の「弟」は優しい

「勿論、慕ってくれても良いよ」

と、朗らかに提案した後、止めを刺す

「ああ、異議異論は受け付けないから」
「此れ、決定事項だから」