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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
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真剣と一所懸命(おしゃべりさんのひとり言 その88)

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真剣と一所懸命



「おーい。秋日子。ママいないから昼飯食べに行こう。準備して!」
僕は階段の下から娘に声をかけた。
「え~? 無理。勉強があるから」
「ランチぐらい行けないか?」
「明日模試だよ!」
僕は仕方なく外食を諦めて、家でピラフでも作ることにした。

最近こんなことが増えている。娘の大学受験にはまだ2年あるけど、毎日家での勉強時間が5時間くらいになっている。土日ともなると、朝から晩まで自室にこもってるもんな。
本当に勉強ばかりしてるのか怪しいけど、成績がどんどん伸びてきているので、まんざら嘘でもなさそうだ。
親としては学費のことが気になって、国公立大に行ってくれると助かるからいいけど、今通ってる高校が県内随一の進学校ってことで、兎に角勉強しないと付いていけないらしい。
僕の高校時代なんか、行きたい大学はあってもテキトーに遊んでばっかりで、悩みなんか恋愛ぐらいだったと思うよ。
ところが娘の懸念点というのが、ちょっと変わってるんだ。

小学校の頃から、自然科学の分野に興味があるって話は聞いてたけど、もっとピンポイントで興味の対象を聞くと「フクロウが好き」だって。
「フクロウ?」
「最大種のシベリアワシミミズクが一番好き」
「ミミズクってフクロウと一緒か?」
「うん。大体は頭の羽の形が違うだけ」
「・・・飼えるのか?」
「買ってくれるの? 飼いたい!」
「いや、ママが猫アレルギーだから、インコもイヤだって言ってた」
「そうか。北海道にはワシミミズクより大きい、世界最大のシマフクロウもいるけど、これは保護されてるから飼えないんだ」
「小さいのなら、お前が将来独立したら飼えよ」
「そうする・・・でも将来はフクロウに関係する仕事に就きたいんだ」
「え?・うん???・・・フクロウ関係? どんな?」
「わからない」
子供の想像力って果てしないもんだけど、それを現実に照らし合わせると、ちぐはぐなことってあるもんですね。
「フクロウで食べていける仕事って、何かあるのか?」
「ペットショップかフクロウカフェ?」
「大学行かなくてもいいんじゃないか?」
「そうだね。ほかはフクロウの研究くらい」
「それ、いいじゃない」
その僕の言葉を聞いて、娘の表情が明るくなった。
「でしょ。でも研究してるとこ、めったにないんだ」
(なんだ、ちゃんと調べてんじゃん)「例えばどんなとこ?」
「博物館の展示で調査してたり、たまに研究所が紹介されてるけど、そんな就職先は、どんな大学行けばいいのか分からないし」
「ネットで調べてるんだろ。簡単に見つからないか?」

僕は何かをネットで探し出すのが得意だから、その日から代わりにいろいろ調べてみようと思った。
結果、確かにフクロウに関する研究のようなことをしている機関があるにはある。でも地方のほんのちょっとのイベントの為だったり、子供の自由研究の延長線上のようなものだったりで、専門的な生態調査や繁殖とか保護の研究とは言い難い。
(こんなのじゃ将来の目標として、娘に勧めてやるわけにはいかないな)
でも学術的なレポートは、それなりに興味深く面白い。その出所を見ると、ある大学に絞られた。

「北海道大学には、フクロウの本格的な研究所があるみたいだぞ。それに旭川の動物園にも」
「そうなんだよ。だから私も北大がいいなって思ってたの」
「なんだ、知ってたのか。じゃ県庁にいる知り合いに北大出身がいるから、情報聞いといてやろうか?」
「フクロウの研究所の情報なんか知ってるかな?」
「研究所じゃなくても、札幌での生活がどんな感じか分かるだろうし」
「う、うん・・・」
「じゃ、そこ目指すか?」
「え!?・・・いいの?」
「へ?・・・なんでアカンの?」
どうやら娘は、北海道みたいにとんでもなく離れた地域の大学になんか、行かせてもらえないと思ってたらしい。友達に相談しても、大概の親なら心配で反対されそうだってさ。
「北海道どころか、シベリアでも行っていいぞ」
これは僕の正直な気持ちです。僕自身、世界中を飛び回って来たので、地球の裏側でも平面上のずっと先くらいにしか感じていません。それに最近じゃネットが発達して、お手軽に連絡も付くんだから、宇宙にだって行ってこい!
「じゃ、一所懸命勉強する!」
と、こんなふうにモチベーションが上がったみたいだ。

それからと言うもの毎日の勉強時間とその身の入れようが、すさまじいと感じるのだが、一つ気になることがある。
「一所懸命頑張る」と言っていたのが、最近もうダレ出して、「一所懸命にしなくても大丈夫だから」とか言うようになってきた。
大きな目標を前にして、それを実現できる実力が付く前に気が変わってしまうと、何も達成出来ない人になるのを、僕は心配している。

「秋日子、最近勉強のペース落ちてないか?」
「大丈夫だよ。模試の結果もよかったし」
「ほぉう」僕は慎重に聞いていた。娘の本心を見極めるために。でも、
「・・・私優秀だから」こんな言葉を聞いてしまった。
娘がこんなこと言ってしまうのは、僕の責任でもある。これは僕の口癖みたいなもんで、それを真似てしまったんだろう。
でもそういうことを言ってしまったからには、後には引けない。つまり自分を追い込む時の言葉として「僕ならできる」「僕には才能がある」「僕は自信がある」「僕が何とかしてみせる」などを、無理する時ほど覚悟を決めて使ってきたから。

「今は他人より先に勉強が進んでるだけだろ。油断してたら、あっという間に周りが追い付いてくるぞ」
「解ってるって、でもまた一所懸命になれば、ちゃんとできるから」
「力を抜くのも大事だし、一所懸命に頑張れるってことも分かったけど、ちょっと軽く考えてないか?」
「十分真面目に考えてるって」
「本当にフクロウの仕事したいか?」
「したいよ。したいから一所懸命頑張るって言ってるんだよ」
「一生その仕事するんだろ」
「“一生”懸命にしろって言いたいの?」
「違うよ。それじゃ焦ってるみたいだ。だから懸命になんかなるな!」
「どうして?」
「一所懸命やる必要はないんだ。真剣になれ。真剣になってれば、休んでる時にだって、気持ちは途切れないんだ」
「あ、パパ、解った気がする・・・」
(ホントに?)


     つづく