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ヤブ田玄白
ヤブ田玄白
novelistID. 32390
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「オオカミ婆ちゃん」なのか

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「おはようございます。〇〇さんですね、どうぞおかけください」
「はい、よろしくお願いします。」

「きょうは、寒いですね」私は声をかけた。(診察に入る前にひとこと言葉をかけるのが、ヤブ田の流儀である)
すると、彼女は微笑んで
「そうですね」と答えた。
意外だったが、私の言葉はそのまま受け入れられたらしい。〈もし、反対意見を述べられたらどうしようかと思っていたが、彼女は素直な性格なのだろうか?〉

「それでは検査の結果を説明しましょうか。
〇〇さんの今日の結果ですけどね、ほとんど問題ありませんよ。」
「そうですか、アアよかった」彼女は微笑んで答えた。喜びが満面に溢れている。

 せっかく喜んでもらったのに、水を差すようで申し訳なかったが、医者として本当のことは言わなければならない。
「ただ一か所ですが、異常がみられました。」
「エッ、異常ですか。何でしょう?」微笑みは消えて、ちょっと不安な表情になった。彼女はなかなか感情の豊かな人だ。

「ここですね、尿の所見に異常があります」
「エッ、尿ですか?」彼女の表情は一段と曇りを増した。
「そうです。尿の潜血反応が1プラスですね。」
「エッ、センケツ?もしかして血のことですか?」
「はい、そうです。尿の中に血液が少し混じっているんですね。」

 彼女は早口になって言った。
「でもセンセイ、私見ましたけど、赤くなかったですよ。血は混じってません」
「なるほど。確かに目には見えないんですけどね。顕微鏡で見るとわかるんですよ。
潜血というのは、オカルトブラッド(occult blood)ともいって、目に見えない血ですね」
私の説明が下手だったのだろうか、彼女は青ざめてしまった。

「アラいやだ。私、オカルトは好きじゃないんです。それに血でしょ。そんな怖い話信じられないわ」
「いや、オカルトといっても、映画のオカルトとは関係ありません。
それに、尿に潜血が出るのは女性には多く見られる所見で、経過をみればいいと思いますよ。」
「じゃ手術しなくてもいいんですね。」
「もちろんそういうことでしょう。」
 私は、彼女に多大の心配をかけたことを反省した。

 彼女はオカルトではなく、もしかするとラブロマンスが好きなのではないか。
時間があったら、1時間ぐらい映画の話でもしたかったが、次の人に代わっていただいた。