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HERRSOMMER夏目
HERRSOMMER夏目
novelistID. 69501
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*三行詩抄: 問答歌 ・落穂選 *蝶の唄

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 水割りをゆっくりと飲み終わると、安曇くんは、道之助にひとつ好い喉を聞かせてくださいよと云ったが、躊躇っていると、それでは僕が下手ですが先に歌いますから、次はぜひ夏里さんも、と云われて久し振りに歌ったのは愛の園だった。すると、うまいうまい、上手いじゃないですか、と安曇くんがいうや、それで、いつか言っていた、ほら、ドイツ語訳のものも聞かせてくださいよ、という。安曇くんは英文科でシェイクスピアが専門なのだが、恩師のW.邊先生がドイツに留学されてそこでPh.Dr.の学位を授与されてきた縁もあって、とかくドイツ語に興味を持っているのがよく分かるのだ。でもさ、歌ったことなどないんだよ、人前で、ひとり鼻歌ぐらいは時折、うまく歌えるか試しているだけなんだから、というのも聞かず、ぜひ、いい機会ですからと迫ってくる鮫島先生は水割りをお替りしながら、そんな歌聞けないよ、酒がまずくなってきますから、などと軽口を飛ばしてくる。あら、聞かせてほしいわ、そんな機会はめったにありませんもの、と若いママも乗り気である。仕方なく道之助が歌った訳詞はこんな感じである。))

 Da sind die Blumen ,Blumen, so schön blühen,
Die Blumen der Liebe,so viele blühen,
Wievile pflücke ich ,pflücke ich nicht die alle,
Wo ist ,wo ist der Liebe, Liebe Garten ?
Für zwo, für zwo die alleine,
Liebe Garten !!  
   
*- )
先陣を斬った安曇くんが2曲歌い、道之助が2曲歌い、そしてママが2曲歌い、とはいっても、道之助とママがデュエットしたのがこれに含まれていたのだが、鮫島先生は飲んで冗談や軽口を云うばかりである。そして、一段落つく頃に、4,5人連れの若い客が入ってくると、鮫島先生は云った。さあ、ここらで退散と行きますかな。ママも忙しくなりそうですしね。>>>
 ところで、漢詩には起承転結というものがあるが、次に誘われていったのはまさに、転に当たるといってよいほどだった。先生の馴染みのところとはいえ、入る早々、なんだ、また来たのかよ、である。若い、といっても高校生の娘がいるというから、そう若くはないが、あまりに変わったママがいるものである。入る前に、道すがら安曇くんは云ったのだ。あそこですか、ひどいものですからね、夏里さん、承知しておく方がいいですよ、なんて警告したのだ。実際には、人は悪くはないのだが、こと鮫島先生に対しては云いたい放題なのである。なんてママですか、これでちゃんとした娘がいるのですから、夏里さん、気にしないでくださいね、と先生まで気遣うほどである。
それに比べたら、次に向かった和風のカウンターの店などは女将が年配のせいもあって愉しい雰囲気なのである。お腹にもなにか入れときませんとね、などと云って大根のおでん風に煮てよく味の染みたものを出してくれるし、また、小さな盆がそれぞれの席に置かれ、そこにはお猪口のわきに小さく折りたたまれた和紙がおいてあり、安曇さん、それを開きなはって読んでくださると云うと、女将はそれではひと節、唄わせてもらはっていいかしらと、いい声で都都逸を聞かせてくれるのである。いよう、いいもんですな、女将!..と安曇くんが声をあげ、暫くすると、次には、夏里さんも、読んでくれはる?..と促す。道之助が促されて読み、女将がいい喉で唄うと、いよう、このほうがいろっぽい、艶があるなあ、と丸顔で愛嬌のいい安曇くんが素っ頓狂の声を上げるや夏里さん、その書かれたもの、ぼくにくださいよと、意外やこんなところにも好奇心をみせる。すると、鮫島先生はなにが色っぽいものですか、きみも少し酔ってきましたねと軽口を云うと、そうよ、なにか誤解なはっていらっしゃるわ、そんなことありまへんのよと女将は後の節を唄い落ちをいれて一件落着となったが、いやあ、それでも色っぽい、つやがありますよ、ねえ、夏里さん、と話好きの安曇くんはますます、陽気になり賑わした。 

      *-
・【メモ:アト・ランダム】:翻訳編 ----

  * 中嶋敦の「弟子」より: 孔子と子路
 山月記などで知られている中嶋敦(1900年生)。彼は33歳という若さで夭逝しているが、作品は漢文調で書かれていて聊か、読みにくい感はあるものの魅力あるスタイルといってよい。書き残した作品は多くはないが、そんな中のひとつに短編「弟子」がある。これは顔回や子貢といった孔子の高弟のひとり子路を扱った作品である。彼は遊侠の徒であり、みるからに精悍な青年だが、愛すべき率直さも持ち合わせている。 そんな彼は近ごろ、賢者の噂の高い学匠の孔子を辱しめようと思い立ち押しかけるや、こんな問答が始まるのだ。
 
 Ein junger Mann,der Zilu 子路 heißt und seine Augen-brauen dick waren, versuchend ,den Weisen Konfuzius 孔子 Scham zu machen, mit der linken Hand einen Hahn und mit der rechten weibliches Schwein , ging zu Konfuzius Haus. ...
Mit dem lauten Schreien der Tieren begann ein Dialog zwischen dem jungen Mann ,der seine Augen beleidigend war ,und sanft-mutigem Konfuzius.
     
 「汝の 好むは 何か?.」孔子が訊いた。
  「われの好むは 長剣なり」青年は昂然と云った。
 すると孔子は思わず、にこりとした。その声や態度には稚気とした誇示をみたからであった。  
Dann fragte Konfuzius :Du, was magst du gern ?
So antwortete der junger Mann :Ich bevorzuge ein langes Schwert.
Konfuzius war lachend unwillkürlich ,weil er in seiner Stimme und Haltung den jungen Stolz sah.
Er schien in ihm irgendwo liebenswert Sanftheit zu erscheinen.
Konfuzius fragte sogleich wieder. )

*- *- )