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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
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ツンデレ(おしゃべりさんのひとり言 その86)

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ツンデレ



『タンドラ(TUNDRA)』って車を知ってますか?
北米で販売されてるトヨタの大型SUVです。
僕はこの名前を「ツンドラ」だと思ってました。
そんなことはどうでもいいんですけど、今日のテーマは『ツンデレ』です。

冷たい女の人ってどう?
『冷酷な女性』っていえば、絶対に近寄りたくないけど、あまり親しくないことで、近寄りにくい感覚の人っているでしょ。
その距離が縮まると、案外優しい人だったんだって、気付くことってあるもんです。

男にとって女性との距離を近付けようと思うのは、ライフワークですよね。
でもこれがなかなかうまくいかないんだ。
50も過ぎると、もう危険な領域になってしまいますからね。
若い頃なら、女性にっびびるって感覚はなかった。
知り合いに話かけるのに躊躇したり、緊張したり、そんなことはなかったってことですけど、全く知らない人なら話は別でしょ。
例えその人がものすごい美人で、声をかけたくてもかけづらいですよね。
思い切って、ナンパするくらいの気合でいかないとね。

身近な人にはそんな気合の入った姿を知られたくないけど、全くの他人に対してそうすることはある。
例えば外国でなら。
僕は海外出張が多かったので、旅の恥はかき捨てじゃないけど、知らない人ともよくしゃべる癖がついてしまいました。
決してナンパ目的ってわけじゃないんだけど、近くにいた人に挨拶したり、軽く一声かけたり、これは欧米では当たり前のコミュニケーション。
その後また出会うと、より長く会話をするようになったり、お店の人だったりすると、そこが行きつけの店になったり、次につながるように意識してた。

そんな中でもやはり、冷たい女の人には注意が必要だ。
こっちがニッコリ笑って挨拶しても、無視。
少し反応したとしても、声に出さず頷くだけで、視線を逸らす。
特に(白人女性はアジア人男性を下に見てるな)って気がしてた。
これは僕の思い違いかも知れませんけど、黒人やメスチソ(白人と南米系の混血)は、親しみのある対応をしてくれることが多いもの。
ましてやアジア系の女性なら、無視されることなんかなかったように思う。
だから白人女性には、注意しながら話しかけていた。

そんな僕が(女性から冷たくされるのは嫌)って思うのは当たり前でしょ。
そんなふうに考えていた頃、世の中に『ツンデレ』って言葉ができた。
なんだそれ? 女性にきつく当たられて、その後、甘えられた時のギャップに萌えるって話だけど、そんなこと世の中にあろうはずがない。
二重人格の女か、元々そういう設定でプレイでもしない限りは。

と思っていたら、あった。

イスラエルに出張していた時のこと。
ガザ地区との内紛で、いつ迫撃砲を食らうか分からないほど、危険な時期だった。
割りと安全なテルアビブのホテルを拠点にしてたけど、毎日上空には戦闘ヘリが飛ぶし、数キロ先に砲弾が落ちて煙が上がることも・・・
そんな日々の安らぎの時間って言えば、特別経費がかけられたディナータイムくらいだった。
毎晩高級レストランでワインを飲んで、豪華な食事を楽しんでた。
でもそれも毎日じゃ飽きるでしょ。
たまには地元の人が行くような、街角の食堂も利用してたんだけど、まあサービスが全然違うわけ。
アルバイトっぽい可愛い子がいる店を選んでたけど、それからどうしようなんて考えはない。
そんなある日、『アーネスト』というパスタ専門店に、すごい美人がいるって聞いた。
行ってみた。
いた。
本当に美人だった。

店に入ると、地中海周辺に多い、ボリュームのある黒髪で大きな黒い瞳の、噂の白人女性が出迎えてくれたけど、彼女は全く笑っていない。
表情一つ変えずに、淡々として応対している。
僕らはまず飲み物を注文した。
僕は好きな赤ワインの品種「カベルネソーヴィニヨン」
「ファッツ?」
彼女が無表情で聞き返した。僕の発音が通じてない。
「カベルネ、ソー・ヴィ・ニョン」
「ファ!?」
今度は怒ったような顔で聞き返された。でも何とか理解してもらえたけど、こんなに通じなかったことはない。同僚は、
「コロナビァ」
「ファ!?」
まただ。「コロナビール」って言っただけなのに、本当に通じないのか?
「コロ・ナ!」
イントネーションを変えて言うと、
「・・・」
黙って伝票に書き込んだ。
(美人だけど、態度悪いな)みんなそう思った。
その後『コロナ』ではなく、『コーラ』が出てきて爆笑した。
でも料理は美味しかったし、カードが使える店だっので、そのうち僕らの行きつけのお店になった。
彼女が店にいない時は少し残念に思うこともあったけど、いても全く会話なんかしてくれないから同じことだ。
そんなある日、その店で同僚の一人が慌てて「タバコ吸ってくる」と言った。
彼女が店先でタバコを吸って休憩してるのを見付けたからだ。
その様子を僕らは店内で見てたけど、その同僚は何やら頑張って話しかけてた。
1本吸い終わると、彼はそそくさと帰ってきて、
「無視された・・・(泣)」
(そりゃそうだろ)って思った。
こんな対応を見ると、いくら美人でもちょっと嫌になる。
彼女が店に戻って来て、2階に上がって行くのを、みんな口には出さず意識していたはずでも、それを目で追うの者はいなくなった。
2階に上がる階段は、急角度で直径が80センチぐらいの鉄の螺旋階段。つまり階段の通路幅は30センチぐらいしかない超狭い、ただの避難梯子のようなものだ。
トイレは2階にあったんだけど、事務所か何かもあるようで、彼女はその部屋に行ったみたい。
しばらく経って僕はトイレに行こうと、その狭い螺旋階段を上っていると、突然彼女が部屋から出てきた。
そして僕が階段を上っているにもかかわらず、その狭い階段を下りて来たんだ。
(なんだこいつ)と思って、仕方なく僕は一旦、1階に下りようとしたら、
「ノーノーノー」と彼女が発した。
そして僕一人がぎりぎりの手すりとの間に、彼女の体をねじ込んで、その巨乳を密着させ、すれ違おうというわけ。
僕の顔の10センチ前に、彼女の顔が来た時、
「サンクス」
そう言って、僕の顔を見て微笑んだんだ。

その時思った。
(これがツンデレの醍醐味なのか)

その日以降、僕が注文する時には必ず、
「カ・ベルネ、ソー・ヴィ・ニョン」と、先にゆっくり発音してくれて、
それを僕が真似て注文すると、ニッコリ笑ってくれるようになった。


     つづく