* 奇妙な決闘に関する逸話:--つれづれドイツ語選
*
クライスト :アネクドーテ より
Kleist: Anekdote :-
文芸評論家にして小説も書き、世情に鋭い分析と批評を述べ、且つ、多言語
にも長けた加藤周一氏は、ある書物でクライストを評して、文学史上では優れ
て確たる位置を占めており、読んで素晴らしいと評価が高いが、血沸き肉躍る
点に関しては欠ける劇作家であると書いた。--
そして、それほど知られていないブューヒナーこそ、その点では遙かに面白いとしたのである。--
が、それはともかくも、クライストはその原文、原典に当たって熟読して
みると、彼の独特の簡潔な文体には、最初は手こずるが、読み進めているとそ
の素晴らしさと妙味に心が奪われていくから、やはり、優れた言語芸術に長け
た作家であることが理解でき、堪能できる。--
それはさておき、クライストにはアネクドーテ・逸話集として奇談集が
ある。そのなかのひとつに、こんなのがある。--- >>
これは「最後のプロイセン戦争」からの逸話や、「大酒豪とベルリンの鐘」
に関する逸話や、「イギリスにおける奇妙な裁判」などとともに収められてい
るのだが、その中こんな一節がある。
- PV.- 488 --
ヤコブ、ヤコブ、侮辱しましたわね、この恥辱は夫が戻り次第、貴方にも
必ず降りかかるでしょう、と夫人は泪ながらに云った。
だが、ヤコプはこの嚇かしには気にも留めず、すぐに馬に跨ると、一目散に
駆り立てて戻っていった。-
翌朝四時に、ヤコプはすでに、城に戻っていた。
そして午前9時にはR.伯爵のもとに姿を現していたのだ。--
これはクライストの簡潔な文体で書かれた「奇妙な決闘」Ein merkwürdiger
Zwei-Kampf.からの一節であるが、夫人の夫の騎士カルージュが館を空けて遠
く出かけている際に、同僚の騎士ヤコブがアバンチュールにおしよせてきて抱きしめていた。
それを知ったカルージュは正義のためにヤコプに決闘を申し込み、王から
許されると、見事に成し遂げたという奇談だが、ベルが鳴り原書講読の授業が
終わると宮本が道之助に声をかけてきた。 - (( * (
おい、複雑だな、簡潔な文章というから、分かりやすいと思っていたが、
まるっきり違うじゃないか、コンマはやたらに多いし。-
そうさな、言うとおりだ、最初は手こずったよ、と云うと、おれにはこんな
文章は無理かもしれん、と体の大きい柔道部で活躍している宮本はいつになく弱気を見せた。
そんなこと言いなさんな、と言おうと思ったが喉元で止めると道之助は云う。
ひとつコツがある、カッコでいくつも括ってしまうと実に分かりやすくなっ
てくる。元の文は短いものだし、あとは着ぶくれみたいになっているだけなん
だと云うと、それも厄介なことじゃないか、と宮本は渋面をつくっている。--
まあ、慣れかもしれん、読んでいるうちに慣れてくれば、おもしろくなってく
る、と道之助は笑って云った。
桑子道之助氏の優雅な青春交遊・抄 より
*--
ところで、女の子たちがProf.宇多川さんのことを、おじいちゃまと言っているのを知っているかい、と宮本は話を逸らす。-
なんでも、おじいちゃまにはゆっくり訳していてはいけないのよ、スピードが肝心よ、スピーディに勝負すれば、たとえ 少しぐらい間違って訳していても、ごまかすこともできるのよ、なんてね、そうはいっても語学力がなくてはできんことだし、それに、女の子の方が 早口にも長けているしな、と宮本は何処で耳にしたのか面白いことを言った。
なるほど、そうかもしれんと道之助も変に納得している。
:原典のタイトルは
H. von Kleist: Geschichte eines merkwürdigen Zweikampfs,
Sämtliche Werke, Hanser Verlag S.288以下参照。
その後、カルージュは観衆に振り向くや、大声で訊ねた。:-
われは重責を果たすことができたであろうか。
すると、観衆は一様に皆、ヤー(Ja・然り)! と応えたのである。
- ( * 【つれづれドイツ語選】:--
Unsre Studentinnen hatten mehrmals gesagt,:
Die Schnelle ist wichtiger als Andere in der Ubersetzungs-Klasse
jenes alten Professors.
Das heißt; sie würden den Alten Prof. blenden können.
をぢいちゃまには スピードが肝心なのよ,
. Wie jung, wie schnell, und wie fuchsig waren unsre Studentinnen !
Von ihr schien der großartige Professor
In seiner Übersetzungs-Klasse geblendet zu werden .
わかさと スピーディさと ぬけ目のなさと
* Und ach !, Jene ruhige Gesichter unsrer Studentinnen ,
Nachdem ihre Aufgabe gut gemacht hatten,:--
やりとげたあとの ホッとした表情:--
Gespannt ja, aber danach hatten sie auch Gemüts-Ruhe und Freiheit
freudevoll genossen.
緊張し そして 解放を味わっていたのだ !..
・ 三行詩抄より:
* つれづれドイツ 語より:--
-< 23->:- アウクスブルク市のフガー街;-->>
Übrigens, Fugger ist ein berühmter und bedeutendster Bankherr
und Kaufherr in Deutschland rund am Anfang 16.Jahrhundert.
Deshalb sogenannte Fuggerstadt ist eine alte Mittelalterliche
クライスト :アネクドーテ より
Kleist: Anekdote :-
文芸評論家にして小説も書き、世情に鋭い分析と批評を述べ、且つ、多言語
にも長けた加藤周一氏は、ある書物でクライストを評して、文学史上では優れ
て確たる位置を占めており、読んで素晴らしいと評価が高いが、血沸き肉躍る
点に関しては欠ける劇作家であると書いた。--
そして、それほど知られていないブューヒナーこそ、その点では遙かに面白いとしたのである。--
が、それはともかくも、クライストはその原文、原典に当たって熟読して
みると、彼の独特の簡潔な文体には、最初は手こずるが、読み進めているとそ
の素晴らしさと妙味に心が奪われていくから、やはり、優れた言語芸術に長け
た作家であることが理解でき、堪能できる。--
それはさておき、クライストにはアネクドーテ・逸話集として奇談集が
ある。そのなかのひとつに、こんなのがある。--- >>
これは「最後のプロイセン戦争」からの逸話や、「大酒豪とベルリンの鐘」
に関する逸話や、「イギリスにおける奇妙な裁判」などとともに収められてい
るのだが、その中こんな一節がある。
- PV.- 488 --
ヤコブ、ヤコブ、侮辱しましたわね、この恥辱は夫が戻り次第、貴方にも
必ず降りかかるでしょう、と夫人は泪ながらに云った。
だが、ヤコプはこの嚇かしには気にも留めず、すぐに馬に跨ると、一目散に
駆り立てて戻っていった。-
翌朝四時に、ヤコプはすでに、城に戻っていた。
そして午前9時にはR.伯爵のもとに姿を現していたのだ。--
これはクライストの簡潔な文体で書かれた「奇妙な決闘」Ein merkwürdiger
Zwei-Kampf.からの一節であるが、夫人の夫の騎士カルージュが館を空けて遠
く出かけている際に、同僚の騎士ヤコブがアバンチュールにおしよせてきて抱きしめていた。
それを知ったカルージュは正義のためにヤコプに決闘を申し込み、王から
許されると、見事に成し遂げたという奇談だが、ベルが鳴り原書講読の授業が
終わると宮本が道之助に声をかけてきた。 - (( * (
おい、複雑だな、簡潔な文章というから、分かりやすいと思っていたが、
まるっきり違うじゃないか、コンマはやたらに多いし。-
そうさな、言うとおりだ、最初は手こずったよ、と云うと、おれにはこんな
文章は無理かもしれん、と体の大きい柔道部で活躍している宮本はいつになく弱気を見せた。
そんなこと言いなさんな、と言おうと思ったが喉元で止めると道之助は云う。
ひとつコツがある、カッコでいくつも括ってしまうと実に分かりやすくなっ
てくる。元の文は短いものだし、あとは着ぶくれみたいになっているだけなん
だと云うと、それも厄介なことじゃないか、と宮本は渋面をつくっている。--
まあ、慣れかもしれん、読んでいるうちに慣れてくれば、おもしろくなってく
る、と道之助は笑って云った。
桑子道之助氏の優雅な青春交遊・抄 より
*--
ところで、女の子たちがProf.宇多川さんのことを、おじいちゃまと言っているのを知っているかい、と宮本は話を逸らす。-
なんでも、おじいちゃまにはゆっくり訳していてはいけないのよ、スピードが肝心よ、スピーディに勝負すれば、たとえ 少しぐらい間違って訳していても、ごまかすこともできるのよ、なんてね、そうはいっても語学力がなくてはできんことだし、それに、女の子の方が 早口にも長けているしな、と宮本は何処で耳にしたのか面白いことを言った。
なるほど、そうかもしれんと道之助も変に納得している。
:原典のタイトルは
H. von Kleist: Geschichte eines merkwürdigen Zweikampfs,
Sämtliche Werke, Hanser Verlag S.288以下参照。
その後、カルージュは観衆に振り向くや、大声で訊ねた。:-
われは重責を果たすことができたであろうか。
すると、観衆は一様に皆、ヤー(Ja・然り)! と応えたのである。
- ( * 【つれづれドイツ語選】:--
Unsre Studentinnen hatten mehrmals gesagt,:
Die Schnelle ist wichtiger als Andere in der Ubersetzungs-Klasse
jenes alten Professors.
Das heißt; sie würden den Alten Prof. blenden können.
をぢいちゃまには スピードが肝心なのよ,
. Wie jung, wie schnell, und wie fuchsig waren unsre Studentinnen !
Von ihr schien der großartige Professor
In seiner Übersetzungs-Klasse geblendet zu werden .
わかさと スピーディさと ぬけ目のなさと
* Und ach !, Jene ruhige Gesichter unsrer Studentinnen ,
Nachdem ihre Aufgabe gut gemacht hatten,:--
やりとげたあとの ホッとした表情:--
Gespannt ja, aber danach hatten sie auch Gemüts-Ruhe und Freiheit
freudevoll genossen.
緊張し そして 解放を味わっていたのだ !..
・ 三行詩抄より:
* つれづれドイツ 語より:--
-< 23->:- アウクスブルク市のフガー街;-->>
Übrigens, Fugger ist ein berühmter und bedeutendster Bankherr
und Kaufherr in Deutschland rund am Anfang 16.Jahrhundert.
Deshalb sogenannte Fuggerstadt ist eine alte Mittelalterliche
作品名:* 奇妙な決闘に関する逸話:--つれづれドイツ語選 作家名:H.SOMMER-夏目