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美しき闇

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「それが契約やな、ええやん」
まことに奇妙な提案である、しかし想像力をたくましくする提案であった。
「おもしろい、ほんとに変わってる」
ひとり暮らしの男は興味半分で受け入れた。オートロックのマンションでは他人の生活には無関心である。隣室の人とも顔を合わすことはすくない。共同生活をしているはずだが、実感を伴わない。たまに管理組合役員をするとき共同体を認識できる。
マンションは干渉しないが助け合う、奇妙な集合体であると男は思う。その奇妙な集合体のひと隅で奇妙な関係の男女が暮らし始める。
男からメール
「どうしてる?ひとりで飲み始めたけど」
「まだ、仕事、終わらない」
女の仕事が気になったが、そのままにしておいた。
「入れない、けど、いやらしいことたくさんしてほしい」
ビルとビルの間、大型観光バスの横、映画館、人気のない昼すぎの喫茶店のすみ、
濃厚なペッティングを繰り返した。
初老の男はそれで十分満足しているようだ。
「男のひとって、なんで燃えるのかな」
女は尋ねて研究する。
「ミニスカート、セーラー服、縛るとか」
女の言葉に、男の奥が強烈に反応する。
「こんど、してみよう」
「縄、下着、ネットでなんでも買える」
「口紅も真っ赤なもの」
二人には挿入がない分、盛り上がるところがある。

女は慣れてくると客を観察できる余裕が出てきた。例えば、鼻毛が伸びている、とか。
客はたいてい、喜んだ。
男たちはMの状況を楽しんでいる。セラピストが目の前にいるのに、手を伸ばしてはいけない。ルールに違反すると、出入り禁止になってしまうからだ。
挿入がない分、体臭とかに注意力が働く。匂いはあまり意識されないが、重要だ。
指摘され女には体臭がないのに気がついた。
オナニーもポルノ鑑賞もどこか似ている。それは匂いだった、他者の存在を認識する。
あのスリップを着ていった。
「ほんとに着てくれたんやね」
客は無邪気に喜んでいる。
「下着だけで、よつんばいになって」
からだがより柔らかくなりいやらしくなる。
「足を開いてお尻を上げて」
たいていの客が喜ぶ、妻や恋人には言いづらいのだろうか。
胸元をのぞきこんで
「どんな下着なん、ちょっと見せて」
「いいよ」
ブラウスのボタンをひとつはずした。赤いスリップに赤いブラジャー。客は子どものように喜んでいる。
あとでゆっくり、眺められるのに、と女は思った。
客は注文した
「下着姿でよつんばいになってほしい」
客の嗜好をさぐりながら、スカートを脱ぎ、靴下も脱いでいくと、からだがもういやらしくなってくるのがわかる。客はま横から眺めている。
メンエスのマットは床に直引きだから、客との距離はない。間には空気だけが存在している。
「もっと足を開いて、お尻を上げて」
女の芯が反応し溢れてくるのがわかる。
「もう、いいですか」
と、女は主役の交代を告げた。
客がマットの上でよつんばいになった、男根はみなぎって、エネルギーの行き場を探している。男性の匂いが部屋に満ちてきた。
さわると
「熱い、熱くて硬い」
客をほめた、
客の中の懸命さに心を動かされる。この客は、手コキを卒業している、さて今日はとうしようかと思案。女から触るのは許容されているが、客からはそうしないのがルールだ。
「自分でしてもええか」
客の方が提案してきた。
「ええよ、出るとこ、見せて」
客を煽った。
顔を近づけてながめる、客は自虐的な興奮状態だ。
「力を入れてるの」
「力はいらない」
「ねえ、オナニーして」
「おもしろそう、一緒にいこうよ」
乳房を出して乳首をなぞって見せる。
「いきそう」
「もうちょっと」
「いくとき、言ってね」
「いきそうや」
客は射精した。
男根はしだいに勢いを失っていく、眺めながら、女は満足した。客にティッシュを渡す。
この男も本指名客のひとりになった。
抱きしめてくるので体を任せた。客の手がお尻のかたちをたしかめる、パンティをなぞる、客の好みに合っていたら、いいのだけど。
年上の客を選んで、常連にしていった。30歳すぎの女性は脂がよくのったさばのようだ、密着したら威力を発揮する、させ頃と言う。
挿入だけが目的のような20代とはちがう、女のからだをじっくり観察する。男たちは、皮膚感覚を味わう、その感覚の延長に性器の感触がある。
オーナーが
「ナンバーワン、や。すごいわ」
「そうなんですか」
「Ⅿのええところは、明るいことや、ほんま、明るい」
「ようわからへん」
「こういう仕事はどこか訳ありやからなあ」
女は同棲が精神安定剤になっていることをあらためて自覚した。このような仕事をすれば情緒不安定になり心のバランスを失うのではないかと恐れたが、杞憂におわった。日常が非日常を支えているのだ。そうでなければ、このようなきわどい仕事を続けられないだろう。6時までには終えて、頭を切り替える。


「濃い、飲むのは好きよ」
男は女の言葉から女の過去に思い巡らせた。
「気持ちいい」
「良かった、楽しい」
男根から太ももへ、唇をはわすように舐めていく、微妙でていねいな作業だ。
「犯して」「ちょうだい」「いきそう」「いっていい」
とさけぶ、朝のオナニー。
「男のひと、固くなったら出さなくてもええのかな」
「出すとこ、見たい」
「出したいのがわかる」
男はまるで懇願しているようだ。
入口にあてて、出そうとする。
「だめ、ぜったいにだめ」
「入り口だけでも」
女は拒む。口の中に出す。
しだいにそれだけでは、出せなくなる、自分でしごくようになる。
妄想ごっこをふたりで楽しむ。
「ひとりでオナニーしてたらね、男が見ていて入ってきて、いきなりするの」
「興奮する」
「裸で留守番してたらね、宅配が来るの、あわててワンピースを着て、玄関へ行く
下着なしでよ」
「そいつがじろじろと見る、丸裸にされてるみたい」
暴力は嫌いだか、乱暴な言葉を浴びるのは好きだった。
「そいつとやってもええよ」
「ほんとに」
頭のなかでセックスが始まる。お互いを妄想の道具にしあう。女の手が男根の上におかれる、その張りを確かめて女はほっとした。
男はブラジャーのカップに手を入れて乳房を手のひらで包み込んで、ゆっくりと動かす。乳房も乳首も小さめ。
「さわりかた、いやらしい」
「誰と比べてるんや」
女はごまかそうと、男の前に顔を近づけて男根を含んだ。
「出てしまう」
「出して、飲んであげる」

言葉がいちばん大切だ、どのタイミングでどういう言葉をなげかけるか。話題の選択も肝心だ、男がとっている朝日新聞と京都新聞は役にたった。
男は新聞を隅から隅まで読むようにすすめた。長い文章を読み切る、美しい言葉を発見する、つかえる表現をマスターする。なにより、客に関連する記事の収集ができる。
男は短時間で頂点に到達できるが、女の場合、時間がかかる。初めての頃、10代だと、男の性欲を満たすというパターンになりがち。女が年上の大人から、ゆっくりとしておだやかなセックスを教えられると、劇的に変化する。
女は、荒野に体をはって乗り込んでいるような冒険心、頭をフル回転させて未知の世界へ踏み組む好奇心でいっぱいだった。
作品名:美しき闇 作家名:広小路博