主犯と共演者の一致
「俺も実はそうなんだ。ただ、俺が一緒に犯罪を犯したわけではないと思ったのは、二重に首を絞められているのは、最初の犯人が殺そうとして首を絞めたが、死んだと思って細工もせずにその場から立ち去ったのを、きっと影から見ていたか何かしたもう一人が、細工を施そうとした時、ひょっとすると、被疑者が意識を取り戻したりしたんじゃないかな? このままでは、自分が犯人にされてしまうと思い、とどめを刺したことで、自分も犯罪に加担してしまった。だから、細工を催すしかなくなってしまったんじゃないかと思うんだ。だから、この場合、どっちが主犯という謂い方ができるのかというくらいに思えてくるんだ」
「主犯は誰なんでしょうか」
と上野刑事は門倉刑事の意見を聞いてみた。
「俺が思っているのは、岡崎静香が一番有力なのではないかと思うんだ。もちろん、監視されていたという情報が本当であればね。だけど、奥さんの妹とまで偽って、抱え込んでいたのだから、相当赤嶺佐緒里とすれば溜まったものではなかったはずだと思うんだ」
「それは思いますね」
「きっと、第二の殺人は、十中八九、過失致死に当たると思うんだけど、あの殺人がなければ、第一の殺人はきっと解明しなかったかかも知れない。第三の殺人で黒熊が殺されたのは、彼を殺すことで、第二の殺人を第一の殺人と結びつけないようにしようという企みがあったのではないかな? ただ、企んだ人間が殺したわけではなく、企画し実行した人間がいる。ただ、それがたまたま岡崎静香とやり方が見ていたということだね。つまり岡崎静香も、殺害計画を立てる時に、この男に助言を賜っているのかも知れない。一種の裏街道のフィクサーのような男とでもいうべきか」
「じゃあ、それって、桜井庄一郎の関係ということですか?」
と、上野刑事は聞いた。
門倉刑事が解明できたのは、その裏で、大曾根の助言があったことは読者には分かっているであろう。しかし、それを公にすることは門倉刑事の本意ではない。
「そうだろうね、俺は今回の事件で共犯ということを口にしたけど、ひょっとすると無意識にこの男のことを共犯と混同していたのかも知れない。見えないところでの共犯、影のフィクサーがこの事件を怪しいものとして彩らせているのではないかと思うんだ。そういう意味ではこの事の本当の主犯って、誰だったんだろうね? 三つのそれぞれに実行犯が違う。だけど、裏で繋がっていて、フィクサーが見え隠れする。誰かが殺害されることによって利益を得る人間に、殺害意識、あるいは、殺されてほしいという意識があり、意志を実行に移したのであれば、その人間はもはや共犯ではなく主犯なんだ。俺はそれを思うと、今回の連続殺人の主犯は一人だと思う。しかし証拠がない。すべては、状況証拠にもならないんだ。しかも、第一と第二の実行犯は死亡しているしね。第三の殺人も実行犯を捕まえてみたところで、その人を捕まえることに意義があるのかなどを考えると、虚しくて仕方がない。主犯を絞首台に送るというくらいのテンションでないと、捜査を進めていく気力がないんだ」
と門倉刑事が気を落とすと、さらに上の刑事が追い打ちをかけるように言った。
「そこまで主犯が計算していたとすれば……」
その一言に、門倉刑事は、さらなる憂鬱に苛まれるのであった……。
( 完 )
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