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艶笑小噺 『初夢』

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「ふ……ふふ……へへ……」
「嫌だよ、この人は、寝たまま笑ったりして……あらまぁ、よだれまで垂らして、よっぽど良い夢でも見てるのかしらね……ああ、そうだ、そう言えば去年お祭りの後吉原へ繰り出して行ったっけ、町内の男衆総出だったからねぇ、付き合いの悪い男だと思われちゃいけないと思って送り出したけど……あん時の女の夢でも見てるのかしら? だったら悔しいじゃないか……ちょいと、おまいさん、おまいさん、起きとくれよ」
「う……ううん……なんでぇ?」
「ずいぶんいい夢見てたらしいじゃないか、口元が緩みっぱなしだったよ」
「え? あ……ああ……」
「ちょいと教えておくれよ、どんな夢だったんだい?」
「それがな……一富士でな、タカがなすび咥えてたのよ……」
「あら、そりゃ随分と縁起がいいじゃないか」
「え? あ……ああ……そうだ、そうだよな」
「初夢って言ったら、一富士、二鷹、三なすびって言うだろぅ? 今年はきっと良い事あるよ」
「ああ……そう願いてぇもんだ」
「あたしゃてっきり……」
「てっきり……なんでぇ」
「いや、何でもないよ……今。お茶淹れたげるね」
「ああ、頼まぁ……ああ、熱くってうめぇや、目が醒めるぜ……おう、これ飲んだら大家さんのところへ年始に行ってくらぁ」
「ああ、それがいいよ」

 男が出かけて行きますと、おかみさんもお茶をすすってひと息入れます。
「あんな良い人を疑うなんて、あたしもバチ当たりだねぇ……そりゃ顔はちょいと拙いかも知れないけど、正直でまめな働き者だから晦日の払いに困った事なんて一度もないんだからね、それにあたしには優しくしてくれるし……」
ひとりにんまりしております、一方ダンナの方はと言いますと……。

「大家さん、あけましておめでとうございます」
「ああ、八っあんかい、いや、おめでとう」
「おひとりですかい?」
「そうなんだ、かみさんは初詣に出かけてね、あたしも一緒に行くつもりだったんだが、今朝になったらどうも熱っぽくてね」
「そりゃぁいけねぇや」
「いや、たいしたことはないんだよ、でも歳も歳だからね、一応大事を取って留守番してるって訳なんだ……今、おせちを肴に軽く一杯やってるところなんだけどね、お前さんも一杯どうだい・」
「へぇ、じゃ遠慮なく」
「同じ店子でも熊さんはいけないね、あれに酒を勧めると家中の酒みんな飲まれちまう、それでもって悪態までつき始めるんだから始末に負えないよ、その点、八っあんのはほど良く飲んで口が滑らかになる楽しい良い酒だよ、どうだい? もう一杯」
「へえ、頂きやす」
「おせちもつまんどくれ……時に八っあん、なんだか上機嫌じゃないか」
「へえ、ちょいと面白いことがありやしてね」
「なんだい? 聴かせておくれよ」
「実は今朝、夢を見てたんで」
「初夢だね? どんな夢だったんだい?」
「一富士でタカがなすび咥えてたんで」
「ほう、そりゃ随分と縁起がいいじゃないか、昔から一富士、二鷹、三なすびって言うからね、それをいっぺんに見たなんて、今年はよっぽど良い事あるんじゃないかい?」
「へえ、だと良いんですけど、実は違うんで……」
「どういうことだい?」
「去年、祭の後に吉原へ繰り出したんでさぁ」
「ああ、そんなことがったね……お前さんのおかみさんは器量が良くて心根も優しい、良い女だけどね、ちょいとばかり悋気が過ぎるのが玉に瑕だ、良く送り出したと思ってたんだ」
「まあ、あん時は男衆総出でしたからね、あれも付き合いの悪い男だと思われちゃいけないと思ったらしいんでさぁ」
「まあ、そうかも知れないね、で、それと初夢とどんなかかわりがあるんだい?」
「それが大ありなんで……一富士ってのは、あん時登楼(あが)った見世でしてね」
「そうだったのかい、鷹は?」
「あっしの相方についたのが、おたかって遊女だったんでさぁ」
「猛禽の鷹じゃなくて、おたかさんかい、で、なすびは?」
「へぇ……あっしの脚の間にぶら下がってるんで……」
「ははは、なすびはそれかい? おたかさんにそいつを咥えて貰ってるって、そりゃ良い思いをしたねぇ」
「へぇ……まぁ……でもああいう所の女ってのは違いますね、おたかも若かぁなかったし、良く見りゃ器量もそれほどでもなかったんですけどね、なんていうか妙に色っぽいんですよね」
「まあ、男をたぶらかすのが仕事だからね、長くやってりゃ自然と身につくのかも知れないね……それにしても八っあん、お見それしたよ」
「なんです?」
「なすびって、お前さんのはそんなに先太だったのかい?」
「面目ねぇ……へたの方が先っぽなんで……」
作品名:艶笑小噺 『初夢』 作家名:ST