エクスカーション 第3章 (治療と治癒)
「いや、それはない。結果が出ているしな。それに大人の場合早く治療しないと回復しなくなる可能性も考えられる。磁気治療は正解だと思ってるよ」
「俺も正解だと思う」
「小学校の北島先生が言ってたんだが、チャイムが甘いって言ってた子がチャイムに味を感じなくなってがっかりしていたらしい。音楽に色が見えた子の一人も色を感じなくなって音楽が楽しくなくなったとも言っていた。せっかくの共感覚が消えてがっかりするっていう側面もあるんだな。加藤さんの奥さんも共感覚を楽しんでいるというし・・・」
「そうか、そういうこともあるのかあ~・・・クロスモーダルな知覚って案外いいものなのかもな。昔のミュージシャンなんかはドラッグで楽しんでいたというくらいだし。で、先生自身はどうだった? 色のこと」
「症状は変わらないようだが、さして不自由もないんで放っているらしい。まあ、何かするにしてもどうしようもないだろうけど」
「そうか、加藤さんのTCM治療のことも、まだ途中だから勧めるわけにはいかないわな。うつ病にせなあかんし」 田島はそう言うと話を切り替えた。
「あの地女には連絡とったか?」
「チジョって?」
「地学の院生の木下さん」
「チジョって言うなよ。チジョって言うとあの『痴女』みただろ」
「そしたら、『石女』の木下さん」
「石女ねえ・・・昨日電話したよ。いろいろ情報もらったし、こちらのことも報告した方がいいと思ったんでな。あれから北海道では特にこれと言ったことはないようだ。オーロラも出ていないと言ってた。ああ、それと田島に言っとかないといけないことがある。来月の末、彼女こちらに来るらしい。京都で行われる研究会に教授のカバン持ちで来るっていうので、それなら滋賀にも寄ってもらおうと思って会うことにした。日が決まればお前にも知らせるよ」
「俺がいてもいいのか?」
「なんで?」
「いやいや。そうやな、ジャンダルムの計画も立てないとあかんしな」
「ジャンダルムか・・・」 岸田の頭の中にはジャンダルムのピークに立つ3人のイメージが浮かんでいた。
作品名:エクスカーション 第3章 (治療と治癒) 作家名:ひろし63