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ネコと少年とお局と

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ネコと少年とお局と





ある昼下がりのオフィスの中。
いつものように罵倒のごとく説教の大声が飛び交う。
「何やってんのよ、この伝票の入力何回間違えれば気がすむの?一体何度注意すれば分かるの?これじゃ私にいくつ口があっても足らないわよ。ロボットでももっとマシな仕事するでしょ。」
「あ、はいすみません。」
「すみません、じゃないでしょ。こういうのは謝ってすむ問題じゃないの。そうやって気軽に謝れば穏便にすむみたいな安易な発想してるから、こんなくだらないミスを何度も繰り返すんでしょ?あんたここに来てからまったくといっていいほど成長してないからね。」
怒涛のごとく部下に罵倒を浴びせているのは林凜子というあるIT系請負の中小企業に勤める経理課長代理だった。年齢はすでに40代後半で50代突入が間近に差し迫っていた。「またいつもの説教が始まった」と周りは知らんぷりしているようだったが、怒られている部下はたまったもんじゃないという面持ちで下を向きながらただひたすら上司に謝っていた。
「だいたいあなたね、理解力以前に真剣さが足りないのよ。だからケアレスミスが多いの。仕事をなんだと思ってんのよ?」
「はい、すみません。以後気を付けます。」
「気を付けますって一体何度聞いたか。耳にタコができてんのよ。会社は学校じゃないんだからミスをしたら普通は自分で二度としないようにするでしょ?上司に怒られる前に厳重に気を付けるもんでしょうが。」
「はい、申し訳ございません。」
そんな感じでこと10分ほど永遠と説教が繰り返された。いつものことなので周りはもう平気で気にしてないようだった。これはもういつもの風景で日常茶飯事の出来事といってもよかった。
「もういいわ。あんたみたいな無能に説教してるだけ時間の無駄だから。さっさと下がって。」
「はい。」
そういって部下は心が折れて意気消沈しながら自分のデスクへと戻っていった。
「ったく私の貴重な時間が無駄になるでしょが。」
そういって林凜子は自分のデスクの上に置いてあったペットボトルのダイエットコークを飲みほした。
「あんたたち私これから会議にいくからしっかり仕事してなさい。」
「はい」
部下たちはしぶしぶそう返事して、上司がいなくなる一時を大いに喜んだ。
この会社は渋谷ホールディングスといって、IT系の会社で大手企業や官庁などのシステム開発を一手に請け負っている中小企業だった。そのため開発部門が主流を占めていて、社員のほとんどはSEやプログラマーの男性社員だった。林凜子は大学時代、コンピューターやらIT系の企業など全く興味もなかったが、たまたまそこしか受からなかったから腐れ縁でこの会社にずっと勤めていた。学生時代には特に他にやりたいこともなかったし何となく拾ってくれた会社だからただ働いているだけだった。しかしSEやプログラマーというのはとかく男性がなりたがる仕事らしく、入社したら思いのほか男だらけだということに気づいた。まさに男社会の会社だった。そんなこんなで入社時30人ほどいた同期の中にいた8人の女性社員も最初から出世などほとんど興味がないようだった。ただ腰掛で働いて30歳までに結婚できればいいと考えている女性社員がほとんどだった。そして実際に3人は30までにめでたく結婚して子供を産んで今では立派な専業主婦をしている。30過ぎて結婚した一人も子供こそいないが夫婦共働きで収入に余裕があるのか自分は派遣やパートなど好きな仕事を自由にやりながら夫婦水入らずの楽しい生活をしているようだった。
そして結婚して専業主婦になりたくない派も二人いて、そのうちの一人は元々OLになどなりたくなかったタイプで、「男社会のIT業界にいたって出世できないし意味ないけどここしか受からなかったから仕方なく入社した」と女子だけの夜の同期の飲み会などで散々愚痴っていたかと思いきや、いきなり入社7,8年目くらいの30手前になるくらいの頃に「デザイン会社に転職します。」とか言って転職していった。どうやら会社勤めしながら夜や週末にデザイナーの学校に熱心に通って勉強していたようだった。そしてデザイン会社に10年ほど勤めた後は、独立したようで今や立派にこぎれいなブランドを自ら立ち上げて自分の会社を経営して成功していた。選んだ道がたまたま運よく当たりだったのだ。そしてもう一人の専業主婦になりたくない派だった同期もブライダル業界に転職したいとのことをずっと入社時から飲み会などで愚痴っていて、同じく週末や夜間などにブライダルの学校に通っていて、またも同じく30手前になる頃にブライダル系の会社に転職していった。今でもそこでウェディングプラナーをしてホテルなどの結婚式場の披露宴のプラニングをしているらしい。そして最後の一人の同期は池上香といって唯一凜子と同じくいまだに渋谷ホールディングスに在籍していたが、凜子とは違って開発部門の課長を任されていた。いわゆるこの会社では花形の出世コースだった。男社会の会社で女性社員が管理職になることはあまりなかったのに、うまいことやって出世しているようだった。元々この池上香は同期の中で凜子が最も嫌いなわがままそうなタイプの女だった。入社した頃は同期の飲み会などが頻繁にあったので香とはそこそこ会話をしていたが、その頃から何となく性格が合わないだろうと思っていた。そして、今では彼女とはほとんど疎遠状態だった。開発部門は一つ上のフロアにあったし社員食堂もないような小さな会社だったので普段はほとんど会うこともなかった。凜子も池上香も二人とも相当なヘビースモーカーだったのでタバコを吸ったが、喫煙所はフロアごとにわけられていたので開発部門のある上のフロアの喫煙所などほとんど行くこともなかったのでタバコを吸いながら世間話などをするような機会もなかった。会うとすれば昼休憩に外食で出かけるときや朝の出社時にエレベーターでばったり会うことがごくたまにあるくらいだった。それも出社時間が同じくらいならばしょっちゅう会う社員もいたが、凜子は誰よりも早く出社するタイプで出社時間の1時間前には会社についていたので、池上香がたまたま偶然早く出社する時以外は会うことなどもなかった。
作品名:ネコと少年とお局と 作家名:片田真太