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ピアノマン

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「しかし・・・クライアントのニーズに合ってるとか、イメージに合ってるとか、そんな理由だけではたして大事な1曲を選んでいいのか?それは、どの曲がいいか、必死に選ぶことを放棄してることなんじゃないのか?どれがいいのかは分からないし選べないから見てくれがいいのをとりあえず選ぶ。私はそういうのは実に嘆かわしいことだと思う。今回確かに見栄えやイメージなどは和賀直哉君の曲が一番いい出来なのかもしれない・・・でも、美樹の手術に対する恐怖を断ち切り、それに立ち向かわせた・・・そんな希望を与えた曲こそ本当に素晴らしい曲なんじゃないか?何よりも本人が一番歌いたがっている曲が一番の彼女にとっての光るべき曲なんじゃないのか?私はブレイクする前から美樹のことをずっとわが子のようにかわいがって見てきた。素晴らしいアイドルだが、わがままでどうしようもない、それでいて脆く危なっかしいところもあった。だから私はずっと彼女を見守ってきたし、だからこそ周りが反対することも多々あった中でずっと彼女のわがままもできるだけ聞いてあげてきたつもりだ。そして、それは単なる気まぐれなどではなく私が彼女を心の底から信頼しているからこそだ。単なるアイドルという商品などではなく、一人の人間としてだ。だからこそ、今回の指名コンペも彼女の意向をできるだけ汲みとって開催したつもりだ。そして・・・そんな彼女に生きる希望と勇気を与えた・・・そんな曲を是非私も聞いてみたいと思った。」

社長が話し終わると、周りは何も言えなくなり黙ってしまった。

会場中静まりかえってしまっていた。

すると、勝田マネージャーが突然拍手をしだした。

それに影響を受けて周りも次第に拍手をし出して、最後は大拍手の喝さいに

なっていった。

美樹はそれを見て「みんな・・・」とつぶやいた。

勝田マネージャーはステージの方へ登っていって、美樹の横に行くと

「音響さーん最後の曲かけてー。はい、美樹ちゃん頑張って。」と言って美樹にマイクを渡した・・・

「勝田・・・」美樹は勝田の方を見て嬉しそうな悲しそうなそんな感じでそう言った。

「みんな美樹ちゃんと社長の話に感動してやられちゃったよ。松田優のことはまだ好きになれないけどね・・・」そう言って勝田は笑った。

美樹はマイクを持った。緊張が走った。この自分の歌で曲の審査が決まってしまう・・・そう思うとすさまじく緊張した。

不安そうに会場内を見回すと、優がいることに気が付いた。美樹は優の方を見た。

優もうなずいた。

「がんばれ」優は心の中でうなずいた。

美樹はステージで最後の曲を歌った。

最高の想いを込めて・・・こんなに想いを込めて歌ったのは初めてだった。

まるで自分が生まれ変わった新たなアイドルになったかのように・・・

素晴らしいメロディーと歌声が会場中に響き渡った。

まるでそこだけ別世界のステージになっているかのようだった。

彼女が歌い終わると会場中がスタンディングオベーションで拍手喝さいが起きた。

和賀直哉は

「負けたよ・・・俺の負けだ・・・」と手で額を押さえながらため息をつきそう言った。

勝田は

「美樹ちゃんよかったね・・・」と言った。

優も立ち上がりながら嬉しそうに美樹の方を見た。

美樹も優の方を見てにっこり笑顔で返した。




品川で松田優は藤谷美樹と待ち合わせていた。

品川のビルの宣伝映像で藤谷美樹が松田優の作った曲「絆-キズナ-」を歌っていた。

「お待たせー待った?」

「いや・・・今来たところ・・・」

二人は事務所公認の恋人になった。なのでもうスキャンダルにもなることはないので、変装もしないで堂々と品川の街を歩いた。

できるだけ本人だと分かりづらいように帽子はしていたが、それでも

街を歩いているとファンがときどきサインを求めてきた。

「どう、最近仕事の方は?復帰したばっかりで大変だろ?」

「うんん・・・全然・・・何かいつもよりさらに体調いいみたい」

「そっか・・・まあ、お前の場合はどんな病気しても治りそうだけどな。

末期がんとかでも治るんじゃないか?」

「ちょっと何よそれ・・・本当無神経・・・」

「ははは・・・」

「ちょっと何がおかしいのよ・・・」

「いや・・・別に・・・本当は、元気になってよかったなって・・・」

「そう・・・ならいいけど。でも何かそれも上から目線ね。」

「上から目線なのはお互い様だろ。」

「それもそっか・・・」

二人は笑った。

「今日どこいくんだ?」

「あのね・・・行きたいところあるんだ・・・」

「どこ?」

「私たちが初めて会ったところ・・・」

「え?あのなんとかカフェ?」

「パインズカフェよ・・・」

「何で?」

「え、だって思い出の場所だから・・・」

「なんだよ、それ・・・」

「いいからいいから、ついて来なさい・・・」

「相変わらず度胸座ってるな。」

そんなことを言い合いながら二人はパインズカフェの方へ向かって歩いていった。

もう季節は夏だった。太陽はまぶしく二人を照らしていた。

この先どんなことがあっても二人はこんな感じで相も変わらず喧嘩したり仲直りしたり愛し合ったり・・・そういう日々を続けていくのだろう。

二人の中に出会いの絆がある限り・・・

Fin

 
作品名:ピアノマン 作家名:片田真太