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詩集 season~アンソロジー~紡ぎ詩Ⅶ

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この個人営業のコンビニオーナーである
実家の父親を思い出させる人の良い中年男性だ
僕は早速 奥の休憩室でユニフォームに着替えた
これからの時間帯
通勤通学のお客がパンや弁当を買いにくる
朝のかきいれどきに合わせて
商品を棚に並べてゆく
コンビニとはいえ 24時間営業ではない

午前七時 開店と同時に早速 お客さんが入ってきた
ーいらっしゃいませ。
愛想良く声を張り上げる
客は迷いのない足取りで食パン一斤をレジに運ぶ
僕は不躾にならない程度に客を見た
肩までのサラサラのロングヘア 
清楚で可愛らしい面立ちはナントカというアイドルに似ている
近くの住人なのか ラフなトレーナーの上下といういでたちだ
彼女と話すきっかけが欲しくて咄嗟に口をひらいた
ー今朝、新商品が入ったばかりなんですよ。イチゴー。
情けなくとも そこでどもった
ーい、イチゴとホイップクリームを挟んだパン。いかがですか?
言ってから 押しつけがましい男は嫌われるー
妹が話していたのを思い出し 余計に焦った
彼女は大きな黒い瞳を目一杯ひらいて僕を見た
ーイチゴ大好きなんです、買おうかなぁ。私の故郷でもイチゴを栽培している農家が多くて。懐かしい。
何故だか 彼女が眼を潤ませる
焦る僕 何か彼女を泣かせるようなことをくちばしったのか?
ー田舎から東京に出てきたばかりで。実家を思い出すと涙が出てくるの。ごめんさないね。
彼女は申しわけなさげに言った
ーもしかして、大学生? 地方から出てきたの?
僕の問いに彼女は はにかんだ微笑みで頷いた
ー僕も同じだよ。1ヶ月前、地方の田舎町から出てきたばかりなんだ。
僕と彼女は顔を見合わせて 何となく笑い合う
彼女の笑顔が眩しくて
僕は知らずに眼を細める 

エメラルドグリーンの葉桜が眩しいその日
僕たちは東京の片隅で出逢ったー


☆「誰かがあなたを見てくれていますー涙雨、あした、天気になあれ」

あなたのことをいつも見ています
誰かがあなたを応援してくれています
名前もわからないけれど
見たこともない人かもしれませんが
遠くから見守ってくれている人がいます

挫けそうになったときは
どうか ひっそりとあなたを見守るその人のことを思い出して下さい
そして
今 自分がここにいること
確かに生きていることを全身で感じて下さい
今 あなたがいる場所に まずは
しっかりと根を下ろして
あなたという花を
目いっぱい大きく凛と咲かせてみましょう
あなたが流した涙は
あなたという花を大きく開かせるための
潤いとなり糧となるでしょう

だから泣かないで
どこかできっと誰かが
あなたを見ているからー

今この瞬間
貴方がいる場所こそが
あなたにとって最高の居場所なのです

☆「慟哭ー雨に、祈りをー」

大切な人が苦しむのは辛い
本人が誰よりも哀しいと分かるから
なおさら側にいる者は態度に出せない
自分自身が窮地に陥ったときより
ある意味 もっと哀しい
何もしてあげられない無力感が
ひたひとと波のように
自分の心を満たす


今年もまた
紫陽花が美しく色づく季節が巡ってきた
鮮やかな緑の葉を濡らすのは涙雨
雨よ
もうこれ以上
悲しみを連れてこないで
すべての哀しみを洗い流すように
降りしきれ
雨よ どうかー
色づき始めた花の色が
涙でぼやける初夏の朝