火曜日の幻想譚 Ⅳ
466.墓の中身は誰だろな?
拉致された。
いきなり体をぐるぐる巻きにされ、口をガムテープでふさがれた後、車のトランクに押し込まれる。エンジン音がして、車が発進し、私は体のあちこちをぶつけながらもだえ苦しむ。
(どこへ行くんだろう、私、どうなってしまうんだろう)
不安でたまらない。心が押しつぶされそうだ。
やがて車が止まり、私はトランクから乱暴に放り出され、拘束を解かれる。そこは、ひっそりとして暗い場所。
でも見たことがある、うちの、菅沼家の墓だ。わが家の墓は拝石がどけられ、ぽっかりと納骨室の口が開いている。そこは全てを吸い込むような暗黒だ。恐れおののきながらその納骨室をながめていると、はやし立てるような奇妙な歌が聞こえてきた。
「墓の中身は誰だろな?」
「墓の中身は誰だろな?」
「墓の中身は誰だろな?」
暗黒の墓を前にして、聞こえてくる歌。私は恐ろしくなって、思わず絶叫する。
「墓の中身は、先日、亡くなった私の夫、恭司さんです!」
数秒間の沈黙。
次の瞬間、はっきりと声が聞こえた。
「……残念でした」
その言葉の後、男が覆面を取る。恭司さんだった。
「きょ、恭司さん?」
「君は、僕を殺そうとしたね。でも僕は間一髪、助かったんだ。ここに眠っているのは、この通り、僕じゃない。さあ、あらためて答えてもらおう。墓の中身は、誰だと思う?」
私は、ある考えに思い至り、思わず恭司さんを見つめる。
「……そう、君と共謀して僕を殺したと思いこんでいた、君の愛人の純也くんだ」
青ざめた顔で私は納骨室に下り、骨つぼを手に取った。
「純也……」
骨つぼを抱きしめていると、恭司さんの声が聞こえる。
「さあ、そこで愛人と好きなだけ眠るといいさ」
ガタリと音がして、納骨室は締まり、周囲は真の闇となった。