Straight ahead
源は右耳の鼓膜が破れ、愛華よりも重症だった。それだけでなく、テーブルへ投げ飛ばされたときに肋骨が折れていた。来週からは、くっつきかけている骨を庇いながら、復職する。もちろん、綿野の代わりも。形見のCDからは相変わらず『悪魔を憐れむ歌』が流れている。源が顔をしかめながらお玉でカレーを混ぜたとき、愛華は言った。
「これ野菜、どこ行ったん? 溶けてる?」
「入ってるよ。見てたから」
源が答え、花梨は二人に同時に話しかけようと、一番いい位置を探すように二人の周りを歩き回った。やがて思いついたように、源の体を右にどけて、愛華の体を左に押すと、真ん中にすっぽり空いた隙間へ収まり、両方の手を掴んで引き寄せた。
「ファミリーね」
花梨は念押しするように言い、源と愛華は顔を見合わせたまま、その言葉が意味するところをしばらく考えた後、ようやく笑い合った。
取り返せないものに対する後悔と、体のあちこちに残る痛みに耐えながら。
少なくとも今よりは、まっすぐな道を想像して。
作品名:Straight ahead 作家名:オオサカタロウ