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脱皮

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足首から上に取り掛かった。左からだ。足首までめくりあげた筒状の皮を左右から持って膝まで一気にめくりあげた。やっぱり気持がいい。そのまま大腿の付け根まで剥がしたあと右足も同じように付け根まで剥がした。この先の期待の部分に取り掛かる前に股間の中心部を左右に引き裂いた。通称、蟻の戸渡りと呼ばれるところだ。僕は立幅をすこし広げ、両足を外側に曲げながらO脚になった。そして、指を左右から皮の中にさし差し込んでいき指同士がつながったところでぎゅっと引き下げて破った。皮は左右の足に分かれた。いよいよ重要な部分。これまでの快感からいやがうえにも期待は高まる。ゆっくりと丁寧に引きはがしていった。しかし、あっけなかった。期待していた最上級の快感どころか実にあっさりとしたものでがっかりしてしらけてしまった。何を期待してるんや、アホやなあ。そんなことを呟きながら胴体に取り掛かかることにした。腰から上はなかなかに困難な作業である。胸の下までは下から引っ張り上げるようにして剥がし、その先はTシャツを脱ぐときのように前屈しながら両手を背中に回してめくりあげた皮をつかみ、ひき脱ぐ方法をとった。顔を脱ぐときには顎が引っ掛かった。あごの下をめくりあげながら口、鼻、目、後頭部と剥がしてゆき全部を脱ぎ切った。頭髪の部分は無数の小さな穴が開いており、引きはがす時の力で穴の周囲が盛り上がっていて鳥の皮のように気持ちが悪かった。脱ぎ切った全身の皮は裏返しのまま洗濯機の縁に掛け、あらためて剥がし終えた後の体を確認してみた。少し皮膚の色は薄くなったようで血管が透いて見えるところやその加減か赤らんだ箇所があったものの特に変わった皮膚ではなかった。そして、足先から胴体、手、顔へと撫でるように触れてみた。こちらも特にいつもと違った感覚はない。僕の身体そして僕の皮膚だ。ただソファーで起きた時のような体の重さは全くと言っていいほど感じなかった。妙に体が軽い。まるで重力が少なくなったようで、また身体から疲労物質がすべて抜け出たようでさわやかだ。僕は体を見てみようと思った。そして振り返って鏡の前に行き鏡に映る上半身を見たのだ。鏡には見知らぬ顔の男が写っていた。そしてその顔はすぐに狼狽の表情にかわった。顔に両手を当て確かめた。しっかりと顔の各部の感触が手指と顔の皮膚を通して感じる。僕自身に触れていることは確かだ。もう一度確かめなおすように手で触れなおしてから手を下げたその瞬間、鏡面に映る僕の後ろに僕を見つめる見慣れたパジャマを着た見知らぬ女が立っていることに気が付いた。女は鏡の中の僕に向かって言った。「あなたもやってみた(剥いだ)のね」


作品名:脱皮 作家名:ひろし63