小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

空と海の道の上より Ⅸ

INDEX|4ページ/4ページ|

前のページ
 

角さんもいつの間にか白衣を着て、笠も今日買うとのこと、自然と話しをするつもりで来た四国で、もうすっかりお遍路さんです。そして話を聞くと、滅多に乗物にも乗らず、ずいぶん歩いているようです。お大師様とのご縁が深まったようで、私はとても嬉しく思っています。昨日から寝不足なのか時々頭が痛くなります。

六月三日 午前五時二十分
六番安楽寺宿坊にて


  六月三日(土)晴 

 七時二十五分、安楽寺発。今日は角さんと話しながら歩く。角さんは足もすっかり良くなり、とても元気。昨夜お互いの別れてからのことを色々話す。そして、大窪寺までは遍路道が三つあり、角さんは私が通らなかった大変な道を歩いたとのこと、話を聞いてお腹を抱えて笑った。
 八時半、地蔵寺到着。ここまでの道は車道が多く、着いてみるとよく憶えていて、四つ辻で振り返るとこの前缶ジュースを買った店があり、あの時は足を痛めて、五番から六番が随分遠かったのを思い出す。今は、二十キロぐらいだとやはり長いなとは思うが、一時間ぐらいの距離だと休まず一気に歩いてしまう。
 お寺でも今日中に徳島まで行けばよいので、前の分を取り返すぐらいゆっくりする。歩くのも二人だとついのんびりになる。お寺の入り口で、角さんが私と会ってから、
「お線香、ローソクはあげていないけどちゃんとお経をあげて拝んでいるよ。」と言ってくれ、とても嬉しい。別れる時にはお線香と入れ物をお接待に上げようと思う。

 九時十五分、地蔵寺発。ゆっくり田舎道を歩く。この前は道の両側に草が生えていて初めて蛇を見たので、嫌だなと思っていたが、今日はきれいに草を刈ってあり全然感じが違う。九時四十五分、大日寺着。
 お寺でものんびりと長い時間いて、本当のお参りらしさを感じる。この前見なかった本堂から大師堂の間の仏様も、ゆっくり拝みながら通る。そして無事八十八か所お参りさせて頂いたお礼だけを申し上げる。今日はゆっくりお参りするよう、これもお大師様のおはからいかなと思う。
 大日寺を出てすぐボンゴのタクシーが止まり、声をかけられる。見ると、七十六番金倉寺、七十七番郷照寺で会った運転手さん。お客様を乗せたまま話をして、手を握らせてといわれ、手袋をとって窓から握手。今回は徳島一国を回られるとのこと。
十一時、神社の前で休憩。この道は全然憶えていない。踏切を渡って商店街を抜け、十二時、三番金泉寺。
 この山門は全然記憶になくおかしいなと思いお寺に入ると、遍路道を通りお寺に入ったので、山門から入らなかったのを思い出す。この前は二番寺から畔道を通ってお寺に入り、朝一番にお参りしたお寺。
 十二時半、金泉寺発。電車と平行した道を歩く。一時十分、極楽寺着。お参りを済ませ、納経所で、始めてお接待のお金を頂いた木村さんの住所を教えて貰い、出発。
一時四十五分、出てすぐの喫茶店で食事。歩きながら色々なことを思い出すが、角さんと一緒に話しながら歩くので、感傷的にならず楽しくお参りができる。
 二時二十五分、一番霊山寺着。ここで角さんに、最後のお納経をしてもらうのだと教えられ、納経所へ。満願のお納経を頂き徳島への道を尋ねる。
「とうとうやりましたね。おめでとう。」と角さんに言われ、大師堂では顔がすっかり緩んでいるとからかわれる。
 三時二十分、霊山寺発。角さんに「これからどうするの」と尋ねると、徳島まで一緒に歩いてくれるとのこと、楽しく話しながら歩く。
四時、川崎橋の中央、広くなったところに座り込んで休憩。暑いので川風が涼しく気持ちよい。
五時二十分、吉野川の手前の喫茶店でコーヒーを飲む。すっかり話し込んで六時半出発。土手の道を歩くが、車が多いので河川敷に下りる。紀の川のような広場になっている。
七時半、やっと吉野川橋。角さんの作った童話など聞きながら歩く。すっかり暗くなるが、何の不安もない。楽しんでゆっくり歩くので疲れもない。

 八時半、徳島駅前に。ビジネスホテルをさがし、急いでお風呂に入り九時前食事に出るが、どこも閉まっていて、あちこち歩いたあとホテルの近くのおでんと串かつの店に。十一時過ぎまで角さんの話を聞く。ホテルに帰ってからも、また遍路の、お互いの楽しかった話をして結局寝たのは一時過ぎ。
 朝、七時前に起きて出発の用意。角さんに合羽やお線香入れを渡して代わりに傘を貰う。「大事に捨ててね。」と言われ、高野山まで持っていくことに。
八時二十五分、徳島駅前で時間があれば一緒にモーニングをと言っていたが、駅で、フェリー乗場までどの位と尋ねると、バスで十五分位といわれ、頭で二時間かかると考える。一緒にお茶を飲んで、フェリー乗場までバスかタクシーでと頭に浮かぶが振り切り、「じゃ」、とここで別れる。

 八時四十五分、福島川を渡り港のほうへ。
フェリー乗場から鳴門に向かって折れた道にくる。
ここからははっきり憶えている。あの時の不安と気負いの複雑な気持ちも、そのまま思い出す。港に近づくと涙がこぼれる。道々角さんが無事お参りできますようにと、四国にお礼の心経を唱える。九時十五分着。

 和歌山に着いて朝御飯をと思っていたら、売店の人が十時二十五分発は今日からドッグ入りと言ったので、待合室の喫茶店でパンとコーヒーを頼み家に電話。そばで聞いていた喫茶店の人がドッグ入りは明日と言って下さりほっとする。他のお客さんもびっくり慌てたと言われる。売店の人が謝ってくれる。時間待ちの間に、昨晩書けなかった手紙を書く。

 昨日はお四国最後の日、夜までも楽しく過ごせ、お大師様が私に最後のごほうびを下さったような気がして、こんな夜を過ごさせて頂いたことに心から感謝。
フェリーの中で他のお客さんに声をかけられ、ポカリスウェットを頂く。
 最後のお接待。

六月四日 十一時
和歌山行き フェリーの中で

作品名:空と海の道の上より Ⅸ 作家名:こあみ