空と海の道の上より Ⅶ
予定は遅れましたが、私も横峰寺から下山さえすればよかったし、角さんも、これで歩く自信がついたので荷物を少なくし出来る限り歩きますと言ってくれたので、お互いに良かったと思っています。
今日は伯母ちゃんが神社に来られるとのこと、もし会えたらと、楽しみにしています。後になりましたが、お金有難く頂きます。ありがとうございました。いらない荷物少し送ります。
五月二十五日 午前六時十分
西条市湊照彦様方にて
五月二十五日(木)曇り
朝、照ちゃんや子供達、おっちゃんと一緒に食事。家族的な食事は久し振り。照ちゃんはとてもいい家庭を作っていて、子供達もとても可愛い。奥さんにも良くして頂いて、何もお返しできないのに、お接待のお金まで頂きました。
照ちゃんは「僕の分は退けとかずに使ってや」と言ってくれたので、おっちゃんや照ちゃん、それから後で伯母ちゃんに頂いた分は、足りない時に使わせて頂こうと思っています。
八時二十五分、車で出るのに見送ってくれるが、一番小さいゆう君が、一緒に行けないのですねて向こうを向いてしまう。それがまた可愛い。昨日の香園寺迄送ってもらい本堂にお参りして、八時四十分歩き始める。アイロンを借りたので、手拭いのしわがきれいに伸びて気持ちがいい。
九時、六十二番宝寿寺着。女の人二人がきれいに掃除をしておられる。国道のすぐ前なので、拝んでいる間もひっきりなしに車の音、時には電車の音も聞こえる。
納経所の方と少し話をして九時四十分出発。すぐに西条市に入る。
国道を歩いて九時五十五分、六十三番吉祥寺到着。前の宝寿寺では、本堂の前に斜めの板を渡していて座れずに、中腰で拝んでいたので、ここではゆっくりとお経をあげる。十時半発。
ここ数か寺は国道沿いにあるのと、加えて昨日、照ちゃんに車の中から教えてもらっていたのとで安心して歩く。右手の高いところに神社のグリーンの屋根が見え、何ともきれい。少し向こうに前神寺も見える。自然に足が速くなる。
神社の手前の柚餅子屋さんのところを通り過ごし、先に前神寺に。石鎚温泉のところを右に曲がり、十一時五分着。
前に二十人くらいの人が歩いていく。本堂に行くと、とても賑やか。四国八十八か所のお砂踏みをしていて、大勢のお参り。さっきの人たちもこれに来た様子。私も本堂に上がらせて頂き、お経をあげる。
十一時五十分、国道まで出ず細い道を通って神社へ。今日は歩いているので本参道を通る。何度もお参りしているがここを歩くのは始めて。落ち着いて気持ちのよい道。
十二時、社務所到着。こんなにうれしい気持ちで、また一人でお参りするのは始めて。
社務所でお茶を頂き座っていると、外で伯母ちゃんの声。まだ上の神様にお参りしておらず、伯母ちゃんに声をかけお参りしようと表に出る。
伯母ちゃんの顔を見て、声を聞いた途端に涙が溢れ、伯母ちゃんも涙声に。それから、上の石鎚の神様の神殿の前でお礼を申し上げていると、涙が止まらなくなる。
有難い、もったいないと感じられる心を育てて頂いていることが、嬉しく思われます。
下りてきて神社の食事を頂く。今日、役員会があったようで、そのお弁当を頂く。大きなケースに入ったご馳走で、一人では食べ切れないほどだが、勿体無いので全部食べ、お腹いっぱいになる。
照ちゃんはお墓参りをして、雲辺寺あたりまで送ってくれるつもりだったそうですが、私が全部歩くというので、お墓の場所だけを教えてもらう。伯母ちゃんにもお金を頂き、「あんた歩くんやから、はよう行き」と言われ、一時十分神社発。
一時四十五分、新居浜十五キロの標識、かも川橋。橋の上を歩いていると車のクラクション。振り向くと照ちゃんが手を振っている。見えなかったけれど伯母ちゃんやおっちゃんも乗っているよう。
神社を出る時、照ちゃんは外に出ていて挨拶もせず出てきたので、大きな声で「ありがとう」と言った。会えて良かった。
二時十五分、スーパーの駐車場で休憩。曇っていてなんだかむせる。それに昨日はお腹ぺこぺこだったが、今日はお腹がいっぱいで歩くのがちょっと苦しい。
三時、室川橋、この辺は麦刈りをしていてこれから田植えの準備。高知とはだいぶん違います。
三時半、新居浜市へ。車が止まり、今度は神社の若い先生が二人。一人は前に三十六王子で一緒だった土小屋の先生で、高知に出張と言っておられた。
「もうずいぶん歩いてきましたね」と言われ、暫く話をし、握手をして別れる。
四時十五分、伊予三島二十七キロの標識。
五時、新居浜の町に近くなったように思い、電話帳でホテルを調べるが、たくさんあってどこが近いのか分からない。国道沿いにはないと聞いていたので、ガソリンスタンドで、駅の近くのホテルを聞くと、国道沿いにビジネスホテルがあるとのこと。歩き始めるが、今朝は元気がよかったが、昼からは少し足が痛み、四時過ぎからは足が重く歩くのが遅くなる。
五時半、やっと新居浜プラザホテル到着。シングルの部屋が空いていなくて、ツインに。五百円高いが入ってみると少し広くゆっくりする。
夕方から天気が悪そうで「また雨かな」とフロントの人と話をしたが、後で電話をかけに下に行くと「明日はお天気がいいようですよ」と言ってくれる。家、明代さん、由美ちゃんに久し振りに電話する。
ビジネスホテルはお風呂の小さいのが悩み、足をゆっくり伸ばすことが出来ない。そのかわり何度もお風呂に入れる。
お昼にたくさん食べたのでお腹が空かず、後で外へうどんでも食べに行こうと思っていたら、じゃじゃ降りの雨。結局、晩ご飯は抜きで手紙を書きかけて眠ってしまう。
夜中、すごい雨と雷で、四時に起きてシャワーを浴び、手紙を書き始めると停電。またベッドの上で眠ってしまう。五時、薄暗いところで再び書き始めると、暫くして電気がつく。外はまだ曇っているようだが雨は上がっている。
国道沿いなので、大型のトラックがひっきりなしに走る。一晩中車の音が止むことがない。もう少し国道から離れたところに泊まったほうが良かったかなとも思うが、便利さでは一番なので、何か辛抱がいるのかも知れない。
ここは七時からバイキングの朝食が五百円であるとのことなので、朝食を食べてから出かけるつもり。ベッドも広かったのでゆっくり休めました。
今日は三角寺か、その先九キロに番外の椿堂があるのでそこに泊まるか、まだ決めていません。三島迄行ってから決めようと思っています。
地図を見るとお墓には昼前後に着けそうに思います。お薬師様もお参りして、大手山さんと明代さんに預かっているお供えを渡してきます。
今日で伊予も終わりですが、伊予はあっという間に終わった気がします。高知はずいぶん長く感じたのですが、泊まった日数を数えてみると二、三日しか違いません。どうしてだか分かりませんが、本当にあっという間に過ぎてしまいました。
松山の三坂峠を過ぎてからは、国道も上り下りが無く平坦でとても楽です。でも少し無理をするとすぐ足にくるので、これからは欲張らずに歩きたいと思っています。
五月二十六日 午前五時五十分
新居浜プラザホテルにて
作品名:空と海の道の上より Ⅶ 作家名:こあみ