倫五さんの「ほんのちょこっと街ある記」23/柏・水戸
開校したのは佐賀藩の弘道館が40年以上も早かったようですが、あの「水戸学」のネームバリューが水戸の弘道館を後押ししているのか、全国的には水戸の方がより有名のようです。徳川斉昭と鍋島直正の知名度の差があるのかも知れません。
江戸時代後半から終期にかけて、当時の全国各藩には数多くの藩校が作られ、その教義として儒学から派生した朱子学が推奨され、孔子の教えの影響が大きかったとあります。その藩校の1つとして弘道館がありました。
弘道館の名称はその朱子学の言葉にある1節に由来するとのこと。
ちなみに京都にも弘道館があったようですがそれほど長くは続かなかったようです。
さて、水戸駅に降り立って遠くまで見渡せる駅前の2階広場から見た印象は何とも言えない「しっとり感」に覆われて、ゆったりと感じられる風景は都会でもない田舎でもない丁度良い落ち着きがあり、期待に違わず我が意に沿ったものでした。
江戸時代から連綿と続くその土地特有の匂いが感じられたのは決してオーバーな表現ではありません。ありふれた街並みの中にも、大都会やその周辺地域の雑とした人口過多の都市にはない爽快さが、そこにはありました。
特に数時間前まで歩いていた街々にやや辟易した自分がいたので、余計に落ち着きを感じたに違いありません。甲府市や松本市などで味わった心の安寧感を彷彿とさせました。
真新しく見えた水戸駅と周辺の建物は、街の清潔なイメージを助長しています。TVなどで見かける「黄門様ご一行」の銅像も駅の反対側にあり、ちゃんと出会うことが出来ました。
駅前から伸びる4車線の道路は混雑している様子もなく、広めの歩道にも歩いている人が少ないのは地方都市の定番でしょう。
駅からの大通りを歩いて12~3分ほど、予約していたホテルもきれいでコスパの良さに満足。簡単にシャワーで汗を流した後、途中のコンビニで買った缶ビールを飲みながら水戸の市街地を確認しているうちに窓の外は薄暮状態。
食事のため宵闇に紛れつつあった駅隣りの複合ビルの飲食店街に出かけてみました。水戸駅に着いた時、お隣の10階建ての建物のうちの8階フロアに飲食店街があったように見えていたからです。
そのビルの外観はおしゃれなネオンで飾ってありましたが、近づくにつれて何だか内側の灯りが不足しているように見えたのです。
そして、1階のエレベータ乗り口には飲食店街の営業休止中の貼り紙が…。土曜日にも関わらず周辺の人出がまばらだったのは、コロナ禍でビルの飲食店街が休業していたからでしょうか。
あらぁ、一斉に休まなくても良さそうなのに、水戸市民は国の方針に真面目に応える性格なのでしょうかね。但し、9階に1店だけ全国チェーンのイタリアンレストランが営業していたのでちょっと覗いてみましたが、入店しませんでした。
仕方ないので駅のコンコースに戻り、コロッケ専門店のお持ち帰り総菜を数個と、もう一度コンビニで缶ビールと日本酒の小瓶を仕入れ、ホテルでナイターを見ながらの簡素な食事でした。
さて翌朝はほぼ快晴、ホテル12階から約1km先の駅周辺などが見渡せる眺望の中で朝食を気持ち良く済ませました。
9時頃チェックアウトして、向かったのはあの偕楽園ではなく水戸城址と弘道館跡地です。(普通なら偕楽園に行くのでしょうが…)
地図を見ながら市街地を20分ほど歩くうちに、それらしいエリアに差し掛かりました。佐賀市の弘道館跡地は記念碑だけですが、水戸市の弘道館跡地は瓦屋根が乗った白壁で囲ってあり、それは100mにも及びそうな規模です。
残念ながらコロナ禍のため休館中でしたが、大切にされていることを実感させられました。そして弘道館跡地を含めた水戸城址も人影はまばらでしたが、広い敷地には小学校・中学校・高校などが合わせて数校もあって、いかにも「文教地区」そのもの。
幅が10mもあるような通路は小さな粒の砂利道で、今にも藤田東湖とすれ違うのでは…と思わせる佇まいです。
少し高台になっている広い水戸城址の周囲を半分ほど回って、そのまま市街地を横切り30分ほどで水戸市役所前へ。途中で橋を渡ったさくら川も穏やかで見ているだけでも雰囲気が良く、地元の方には人気があるのではないかと思いながらの散策。お昼前の11時20分頃に水戸駅に着きました。
水戸駅から前橋駅まではローカル線を利用する日程だったので、2回の乗り換え時間まで含めると3時間ほどもかかります。水戸市内で昼食を摂っていると更に時間を食ってしまうので、久し振りに小さめの駅弁を水戸駅で買いました。
JR水戸線、JR両毛線には快速はあっても急行などは走っていません。横1列の座席だと弁当は食べにくいかな…と思いましたが、幸い4人掛けのボックス席がある列車だったので、弁当を窓際に広げることが出来ました。
1両に10人くらいの乗客数で走る各駅停車のローカル線はその「のんびり感」も捨て難く、そんな時は通勤用のような1列シートではなく、ボックスシートの方が景色を眺めながらの旅情を感じることが出来ますね。
途中、小山(おやま)駅で乗り換えたのですが、東北新幹線の停車駅でもある小山駅は予想を上回る規模で施設も新しく、少なくとも私が持っていたイメージを大きく超えていて、乗降客はまばらながらも新幹線停車駅の実力を感じたのです。
作品名:倫五さんの「ほんのちょこっと街ある記」23/柏・水戸 作家名:上野忠司