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空と海の道の上より

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四国へんろは四国八十八か所を
弘法大師空海とともに巡ります
空と海に抱かれて
緑豊かな道をたどって

平成元年四月二十日(木)晴れ

 和歌山港発、八時半の高速船に乗る。九時四十五分徳島港着。乗客は皆バスかタクシー乗場に。歩くのは私一人。未知の旅に少々不安もあるが、元気よく歩き出す。

網代笠を被り、白衣に杖の遍路姿。こんな格好で歩くのは初めてなので、最初はとても恥ずかしかったが、大きな笠を被り歩いているので、道行く人々が立ち止まったり、少し手前でわざわざ自転車を下りて話しかけてくれる。そうするうちに、段々と自分の姿も気にならなくなった。
 十二時、造園用の植木置場を借りて、持ってきたお茶、お弁当で昼食。天気が良く外での食事は気持ちが良い。
 一時過ぎ、お茶を飲んでいると自転車の人に話しかけられ、その人に一番寺を尋ねると、「まだ二里ある」と言われビックリ。本には、港から一番寺迄の距離が書いていなかったのでおよそで予定をたてていたが、今日は予定の六番寺迄は行けそうにない。二番寺に電話をして泊めてもらえるようお願いし、六番寺にも断わりの電話を入れる。

 足が段々痛くなり、荷物も肩に食い込んでくる。
 三時九分、一番霊山寺に着いたときの嬉しさはたとえようもありません。歩くことは値打ちのあることであり、お参りする気持ちが、バスや車で行くときとは全然違う。予定が変わったので気が楽になり、お寺でゆっくりとお経をあげることができた。

 四時二十分、ようやく二番寺に着く。九十九回お参りしたという人に声をかけられ、金の納め札を頂く。
歩いてお参りするというので、何人かの人が「お接待」と言って百円、二百円と手に持たせて下さる。何とも言えず涙がこぼれそうになる。お大師様や仏様のお心に叶うようなお参りを、と願っています。
 夜、あまり荷物が重すぎるので送り返す分と、肩から掛けていた頭陀袋のものをリュックに入れるよう整理する。
 奇麗なお風呂に入り、個室に泊めて頂き勿体無く思っています。お寺もとても奇麗です。
 四月二十日 極楽寺にて


 四月二十一日(金)晴れ

 今日は大体予定通り歩くことができた。

 荷物が重すぎるせいか、足には自信があったのに最初の日から足を痛め、朝出るときから豆が出来、膝が曲がらず、足を引き摺りながら歩く。どうなることかと心配でしたが、何とか歩き通せました。午後七時、切幡寺前の民宿に到着。「あまり遅いのでもう来ないのかと思っていた」と宿の人に言われ、申し訳なく思う。

 歩き遍路の本はなかなかよく出来ていて、お寺からお寺までの距離と時間が書いてあるのですが、自分で歩くのと物の五分も違いません。本よりもずっと早く歩けると思っていたのですが、足が進まないようです。それに、お寺でもお経をたくさんあげるので四十分位かかり、なかなか長い計画が立てにくく、夜に明日一日分だけの計画を立てています。
でも、今日のように七時に着いてはとてもしんどく、出来れば五時すぎには宿に着くようにしたいものです。

 それから、今朝荷物を送ったのですが、まだ重すぎて難儀をしていますので、また少し送り返します。我ながら可笑しくなってきます。最後には、着のみ着のままで歩きたくなるのではないでしょうか。本当に荷物がなかったら、どんなに楽に歩けるかと思います。
時々、本堂が上にある時など、荷物を置いてお経の本と納経帳だけを持っていくのですが、嘘のように楽に歩けます。

 今朝二番寺で一緒に泊まった人が、歩かれるのならと、紙に包んで二千円も下さり、九番寺でも拝んでいる間に千円持たせてくれ、歩いている時にも、外で仕事中の男の人が二百円「お接待です」と、わざわざ持ってきて下さり、今日だけで三千二百円ものお金を頂きました。その他お菓子や果物など数え切れないほどお接待を頂いています。書いていると涙がこぼれてきます。

 今日は二番寺から六番寺へはお昼までかかり、よく二番寺で泊まっていたものと、もし変更していなかった事を思うとゾッとしました。
 色々なところで、お大師様が見守って丁度良いようにして下さっているように思えてなりません。そう思うことが一日のうちで何度もあり、有り難いことと思っています。ですから少しも淋しくなく歩かせてもらっています。これから少し拝んで休みます。お休みなさい。

 四月二十一日 午後十時四十分
切幡寺下 錦青にて


 四月二十二日(土)雨

 朝七時、切幡を出るとすぐに雨。昨日は宿に着いたのが遅く、天気予報を聞く時間もなかった。
下り坂と言うことは知っていたが、朝、宿の奥さんが「今日は持つのと違いますか」と言われた。日も射し始めたので、これから藤井寺、次が焼山寺だし持てばいいがなと思っていると、ものの十五分も行かないうちに雨。
靴を履き替え、リュックにナイロンを掛け歩き始める。十一番までの間、降ったり止んだりで何度も合羽を着たり脱いだり。

 肩から掛ける袋はどうもバランスが悪く歩きにくい。でもなければ不便。紐も少し長すぎたので短くした。中に入れるものも、納経帳と地図と本だけにして軽くした。それで少し楽になった。
今朝も少し荷物送りました。夜、荷物を送り返そうかどうしようか迷い、拝んでいる時お大師様に尋ねると「送るな」と言われた。それでも山に上る時袋の荷物がリュックに入らず不便なので、
「どうして駄目なのですか。必要があるのですか」と聞くと、
「必要ではないが、楽をしたいと思う心を戒めているのだ。送り返してもよいが、決して楽をしたいと思うな」と言われた。
送り返しても良いと言われたのは、お大師様がまけてくれたような気がしたが、早速送り返すことにした。

 今日は予定が立られず、まず藤井寺に行ってからと思い雨の中を歩いていると、車の人が乗るように勧めてくれるがお断りする。
 九時四十五分、納経所に着くと「ああ、来よった来よった、さっきわしはここに来るけん乗らんかと声を掛けたんじゃ」と言われ、さっきの人だったのかと気がついて、納経所の人と三人で色々と話をする。
そして「今日はこんな天気だのに山に上るんかい」と言われ、「行けませんか」と尋ねると、
「いや、行けるけど今日はこんな天気じゃし、今からでは柳水庵(十一番寺と十二番寺の丁度真中)に泊まるほうが良かろう」と言われる。柳水庵迄ならゆっくりでも良いと思い丁寧に拝む。終わったら雨も上がり、少し安心する。
お寺の人が「今はお遍路さんも少ないので、電話をしておくほうが良い。」と番号を教えてくれる。電話で、
「今夜泊めていただけますか」
「今、どちらですか」
「藤井寺です」
「今、藤井寺なら焼山寺迄大丈夫行けますよ」
「もし行けなかったら泊めて頂けますか」
「とにかく上ってきてください」のやりとりの後、十時四十五分山道を上り始める。
 丁度、石鎚山の三十六王子のような山道を上る。途中、分れ道がいっぱいあるが、道しるべを頼りに進んでいく。
作品名:空と海の道の上より 作家名:こあみ