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「この先生、大丈夫なのかよ。難聴じゃねえのか?」
 
と考えてしまうくらいに分析が疑わしく思えるのではないだろうか。ともかくふたりの子供の声が別というのは、
《サンデー毎日の とりいくん》
というのも当時に言っていたとわかるし、他にも多くいたはずである。
 
けれどもそれは忘れ去られてなかったことになっており、2011年になってNHKがふたたび鈴木先生に依頼し、分析の結果、
 
画像:捜査員300人の証言320-321ページ願ってもない新事実
アフェリエイト:捜査員300人の証言
 
ということになって、
 
「NHKだから掴めた新事実! これが当時にわかっていれば事件は解決していたに違いない!!」
 
などと言っちゃっているわけだが、おれに言わせれば、
「あのなあ」
って話だ。ともかくエンデンブシが大学時代に読んだというのはおそらく『闇に消えた怪人』であり、〈彼ら〉が手紙にああ書いてるのに眼を止めた。男の子ふたりに女の子ひとり。これがもし本当とすれば?という、『罪の声』の構想はそこから始まっているのじゃないか。
 
わからないけど、子供が大きくなったところで自分が犯罪に使われた声の主だと気づく、というアイデアは確かにいい。いいけど、そこがいいだけで、そこから先がダメなんだよな。
 
主人公をその子でなく新聞記者の阿久津にしてしまってるのがまずよくないし、取材を始めるとすぐ手がかりの方がタナボタに転がってきて、そこから芋ヅル式に犯人にたどり着いてしまうのがいただけない。推理で意外なキャラクターに、
「まさかあなただったとは!」
と言うようなものでもないし、また、
 
画像:丸太の鷹66-67ページ
画像:丸太の鷹表紙
 
たとえばこのように、何度も壁にブチ当たるようなものでもない。サスペンスの要素ゼロ。つまらん。読んでおもしろくない。永田町に黒幕がいて、イギリスに逃げた曽根達夫以外の一味はみんな消されているという話にするんだったら、阿久津もまた、
「命が惜しけりゃ取材をやめろ」
という脅迫を受けたりとか、新聞社にも圧力がかかってきたりとか、この、
 
画像:覗き見する店員 アフェリエイト:罪の声映画版
 
覗き見の店員も阿久津の前で殺されたりといった展開がミステリとして書くならあってよさそうなもんだが、そういうのはまったくない。ドラマとしてはただひたすらに、
 
画像:彼が生きていてくれることを願うばかりです他
 
「こんなことは言いたくはないですが、この世界で姿を消すということは、しくじったということです。彼が、生きていてくれることを願うばかりです」
「生きてますよね? 曽根さんみたいに、どっかで、幸せに暮らしてますよね?」
「あなたは今、元気ですか? 幸せですか? 俺は……」
 
なんていうのを見せられるばかり。こんなもんは映画じゃなかろう。ハリソン・フォード主演の『逃亡者』みたいにだな、小栗旬が、こう、
 
画像:逃亡者
アフェリエイト:逃亡者
 
列車に轢かれかけたりとか、ダムの滝壺に飛び込んだりとか、銃で撃たれたりとか、片腕、いやキツネ目の男と電車の中で格闘したりとか、ビルの屋上でヘリに追われたりとか、その天窓を破って落ちたりなんていう具合に話を作れんのか。
 
と言いたい。何か間違ってますか。本をカネを出して買い、映画をカネを払って見るならそっちがいいと思いませんか。『罪の声』が声を使われた子供が大人になってそれに気づくというアイデアはいいがそれをただ暗いばかりの方に持ってき、主役を演じる小栗旬もまあ偉そうな顔をして、
 
   *
 
阿久津「空疎な国を見せつけて、何か変わりましたか? 犯罪という形で社会に一矢報いて、何が残りましたか。日本はあなたの望む国になったんですか」
 
画像:小栗旬空疎な国を見せつけて
 
と言う。空疎な芝居を見せつけて、何か変えたつもりですか? 映画という形で社会に一石投じて、多くのものを残せた。これで日本はあなたの望む国になるに違いないというわけですか。
 
と言いたいが、星野源演じる曽根俊也もまた、
 
   *
 
俊也「俺の声が犯罪に使われることに抵抗はなかったの。伯父さん達は、青酸ソーダを入れたお菓子をバラ撒いた。許されることやと思うた?」
 
画像:星野源おれの声が犯罪に
 
と言う。他人を非難することで自分が正しく立派でカッコいい人間になった気になれるやつはいいだろうし、この映画を見、本を読んでウンウン頷く人間には映画代も本代も安い代金なのかもしれんが、おれはこいつを、
 
 
   「てんで辻褄が合ってない」
 
 
と見て考える人間だし、グリ森事件を、
「世間をアッと言わせるようなでっかいことをやってみたい」
という考えの者達が、
「グリコのネオン看板を世界的に有名にする」
を目的にして、
「結果的に企業の宣伝になるんやったら一億くらいもろうてもええやん」
という了見でやったあさましいけど鬼畜性などない計画が、社会の木鐸ぶったエンデンブシやこの映画の小栗旬や星野源のようなやつらに変な方向に進まされた。グリコと森永の損害もいちばん悪いのはこういうやつら、という説を提唱する者なので、
 
「安い正義で満足できるやつはお手軽でいいですねえ。おれなんか今、命懸けで、
『コロナ禍なんか全部嘘だ』
とここに書いてるところだけどサ」
 
と言うだけである。ともかくエンデンブシは例の無料試し読みで、
 
   *
 
 作品を読んでもらった当時の担当記者から「ホンマにこんな犯人おったの?」と聞かれたときは嬉しかったですが、もちろんフィクションですよ。
 
 ただ、本作で描いた犯行グループ各人の役回りについては、それほど外してはいないだろうと思っています。
 
画像:小冊子表紙
 
と言っている。しかしおれの見るところ、それはほとんど全部が『闇に消えた怪人』からのイタダキだろう。何しろその本は、スキャンして見せると、
 
画像:闇に消えた怪人232-232ページS・N氏と警官Z
画像:闇に消えた怪人242-243ページB元組長と電話に詳しい男
画像:闇に消えた怪人表紙
 
このような記述がある。裏社会のあちこちにコネを持つらしき〈S・N氏〉というのはここに書かれる、
 
画像:メンバーはこの人達ですか
 
上東忠彦にそっくりだし、《警察情報を収集したり、犯行計画を作成するなど、グループの中心的存在だった可能性が高い》という〈元警察官Z氏〉はそれ以上に生島秀樹というやつまんま。〈B元組長〉は青木龍一で、「逆探知など電話に精通した者がいるのは間違いない」とかいうのは、映画の曽根達也が、
「はい。他にタニという男がいました。電話会社に勤めていて、無線にも逆探知にも詳しい」
と言うやつそのものだとわかるでしょう。『闇に消えた怪人』では、元自衛隊員の〈M・K氏〉というのがその「電話に詳しい男」ということになっている。
 
作品名:端数報告5 作家名:島田信之