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端数報告5

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なんて書いてるとこかな。ロバート・ブロックというのはヒッチコックの『サイコ』の原作を書いた作家なのだけれど、おれがこいつをなぜ引用したかわかるだろう。あらためて、報道に刺激されたアカウマ説を唱えるためだ。
 
グリコの社長誘拐は、マスコミによって扇情的に報道された。
 
『罪の声』はそれをなかったことにしながら、世間が事件をおもしろがったことにしている。「しまいには」などという言葉をつけて。
 
だが最初から、マスコミの論は怨恨一色だった。十億プラス金塊をグリコが用意できたのは、隠匿されたものだったから。犯人達はそれを知る者達だったのだ。創業者の江崎利一は、生前何か途轍もなく悪いことをやっていたのに違いない。これはその恨みなのだ。だからグリコの旧悪を暴けば、犯人の正体もわかるのだ。
 
そんな報道一色だった。『罪の声』はそれをなかったことにしながら、愚かな世間が事件をおもしろがったことにしている。「しまいには」などという言葉をつけて。
 
 
   報道がそうであったなら刺激された
   アカウマが放火をするというのはないか。
 
 
それは有り得ない話だろうか。いや、充分に有り得るのでは? というのがおれの考えなわけで、ずっとここに書いてきたが、論拠のひとつに、
【〈彼ら〉の手紙の文の中にそれに触れたものはあるのか】
というのがあった。たとえば、放火直後の15日の手紙の中にその言及が何もない。〈彼ら〉がやったことじゃないからないということなんじゃないか。
 
などとおれは書いてきた。おれは書いてきたんだけどね、けれどもこれについてまた――と考えていたところに『罪の声』を知ってしまって後回しになったんだが、『「最終報告」真犯人』と『捜査員300人の証言』に、
 
画像:捜査員300人の証言66-67ページ工場えは通用門から入った
アフェリエイト:捜査員300人の証言
 
画像:真犯人92-93ページ工場えは通用門から入った
アフェリエイト:森下香枝真犯人
 
こう書いてあるところがあった。ふたつは同じ話なんだが、15日の次に書かれた4月22日の手紙に、
《工場えは 通用門から 入った》
と書いてあるという。
 
 
   うーん。
 
 
と言うしかないところである。これは〈彼ら〉が10日の放火を自分達がやったと書いているのと同じだ。おれはこの2冊を読んで初めて知ったが、認めよう。おれの考えが間違っていたことになる。
 
なるけど、しかしこれについて、ちょっとだけ考えるのを許してください。これを〈彼ら〉の嘘と考えるのはできないか。
 
ナントカ新聞は〈彼ら〉が、
《森永の こどもの 声は 小がく2年の 男の子と 女の子や》
と手紙に書いたのを嘘と決めつける報道をしていた。何を根拠に嘘と言うことができるのか、その説明はなしのようだ。これがほんとだと不都合があるのか。
 
たんに警察の〈レク〉と違う。【科学的な分析に間違いあるわけないのだから嘘】と決めつけてるだけみたいだ。しかし声が男の子と女の子でも別に誰も困らんと思う。鈴木という学者は立場がなくなるかもだが、それだけだ。他の人間は困らない。
 
しかし、
《わしらの ナカマの かぞくと ちゃう》
というのはちょっとどうかと思う。仲間の家族なんじゃないの? これは〈彼ら〉が違うということにしたいから「ちゃう」と書いてるだけなんちゃうんか。
 
〈彼ら〉は手紙に嘘と本当を混ぜて書いてる。それは間違いのないところだ。そもそも最初のヒントからして、
《つこうた 車は グレーや
 たべもんは ダイエーで こうた》
という調子だった。このうち『たべもんはダイエーで』というのは勝久氏を監禁した倉庫にダイエーのレシートがあったことから【本当】と確かめられているという。マスコミにはたぶん発表されてないから記者もこれで初めて知った。
 
が、もうひとつ、『つこうた車はグレー』だ。何を書いているのか。勝久氏をさらうのに使ったクルマはグレーと書いてるわけなのか。
 
いや、【赤の2ドア】だ。赤の2ドア? 嘘だろう。人をさらうのになんでそんな。〈彼ら〉が書いている通り、グレーのセダンとかじゃないのか――なんてなことを、おれはここには書かなかったが実は最近まで考えていた。
 
けれどもこれも『「最終報告」真犯人』を読んで初めて知ったのだが、クルマが赤の2ドアなのは勝久氏がはっきり見ているという。これはスキャンより引用がいいと思うので抜き出して見せると、
 
  *
 
 社長は自宅前の路上でテールランプが横長のスポーツカーのような赤い車が徐行して近づいてくるのを目撃している。
(略)
 江崎社長の供述によると、2ドアの車で助手席側のドアが開かれると、シートはあらかじめ倒されていたという。
(略)
 一瞬、社長は身をよじって車に乗るのを抵抗しようと試みたが、犯人らに助手席から後部座席に押し込まれた。
 
アフェリエイト:森下香枝真犯人
 
とあって、クルマが赤の2ドアなのはどうやら間違いなさそうだ。
 
なのになんでグレーなんて書いているのか。
 
さらにのちの手紙にも、
《赤い 車 はじめから あらへん》
と書いたのがあったり、手紙を書くのに使った和文タイプライターの、
《パンライターは 盗品や》
と書いたのがあったり、〈F〉の似顔絵が公開されると、
《あんな ぶさくな かお してへんで》
と送ってきたりしているという。これらは明らかに嘘とわかるが、しかし嘘か本当かわからない文がもちろん多い。
 
〈彼ら〉は嘘と本当を混ぜる。そりゃあ、もちろんそうするだろう。それが利口なやり方だけれど、では、
《工場えは 通用門から 入った》
だが、これは果たして本当か嘘か。
 
おわかりだろうがおれとしては、これは嘘としたいんだよね。〈彼ら〉は放火なんかする凶悪犯じゃないとしたい。だからここから先については、おれが無理に強弁してると思ってくださって結構だし事実その通りなんだけど、それを断ったうえで強弁してみよう。
 
 
警察が放火を〈彼ら〉の仕業と考えているなら、その方が〈彼ら〉にとって好都合ということはないか。
 
 
見当違いの方向を追ってくれてるということだ。〈彼ら〉は怨恨を持ってないのに、持ってるようなフリもしている。
《おまえは かんたんには殺さへん
 わしらを なん回も うらぎりおった》
なんてことを手紙に書くが、どんな恨みがあるのかという具体的なものがない。
 
 
警察が事件をグリコへの恨みと考え、見当違いの方向を追ってくれているのであれば、その方が〈彼ら〉にとって好都合がいい。
 
 
自分達の方には全然、捜査の手が伸びてこないということだからだ。ならいっそのこと放火についても、わしらがやったことのように思わせときゃええんやないか。
 
と〈彼ら〉が考えるのは有り得んだろうか。NHKの本には、
《警察が報道発表していない犯行の中身》や《手口などを伝えていた》
とあるけど、
「犯人はどこから入ったのでしょう。この通用門からか、それとも……」
なんていうのくらい、ニュースなんかで言いそうなものだし、〈レク〉に出られない加藤譲が、
作品名:端数報告5 作家名:島田信之