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なんて言ってるソーサインがいるという。これは割合にわかる気もする。だから読んで騙されてしまう、といった話をこないだしたね。
 
 
   証券会社にとって顧客は大切だ。
 
 
と言われたら確かにそうだろうなと思う。だからあなたもそう考えてしまうかもしれんし、エンデンブシもおそらくこれを読んで「そうだ」と頷いているのではないか。
 
『罪の声』の株価操作の話はだからここから作られているのでないか、とおれは思うわけだが、あなたも「ウン」と頷く前にちょっとだけ考えてみてはどうだろう。証券会社にとって大切な顧客とは、どんな顧客なのだろうかと。
 
この本が書き、『罪の声』で描かれる〈仕立師〉とか〈相場師〉だとか呼ばれる手合いが大切な顧客なのだろうか。
 
企業の株が下がるときに事前に情報を聞きつけて〈空売り〉とやらで稼ごうとする手合いが大事な顧客なのか。
 
その点をちょっと考えてみてはどうだろう。そういうのはたとえばパチンコ屋がパチプロを、【店にとっていちばん大事な客】とするようなもんではないのか。
 
と考えることがあなたにはできませんか。そう考えるとグリ森グレーの言うことはおかしいと思いませんか。証券会社にとっていちばん大切な顧客は、たとえばどんな顧客でしょう。
 
グリ森事件の場合には、
 
 
   ☆グリコと森永の大株主☆
 
 
なのではないでしょうか。
 
どうでしょう。証券会社は事件当時、グリコと森永のオーカブヌシ何十人もに押しかけられて、
 
「ウチの株の暴落で儲けたやつはいないのか! たとえば空売りという手があるだろう。それで何億も稼ぎやがったやつはいないのか。もしいたら、そいつが犯人なんじゃないのか!!」
 
と大合唱されてたというのはないのだろうか。応対する人間は、
 
「はい。もちろんワタシどもでもその可能性を考えて、調査しているところです。それはもう徹底的に……」
 
と応えていたということはないのか。それに向かってまた大株主ズは、
 
「ホントだろうね。いいかげんにチャチャッと済まして『調査しましたヨ』なんて言うことないんだろうね。君らにとっちゃそういう客も大切な客とか……」
 
「そんなことありません! この事件はグリコ様・森永様だけでなくわが社にとっても、証券業界全体にとっても重大極まる事態と考えております。犯人一味は我々すべての証券マンにとっても敵です。もし目的が株価操作なら何億という額の仕込みを事前にやっていたはずですが、そうなら必ず見つけ出して警察に引き渡します。絶対に許しません!!」
 
ということになっていそうなもんじゃないのか。だが結局、前にスキャンして見せたように『キツネ目』の本によれば、
《事件発生後、グリコや森永製菓など、犯人が標的とした企業の株価は急落したり、一転して値上がりしたりと大きく変動した。しかし当時、東京証券取引所と大阪証券取引所は、誰が買って誰が売ったかを徹底的に調査していたのである。株式ジャーナリストの秋山勉によれば、「調査するに当たっては、警察の要請もあったらしい。が、取引所の調査した記録からはそれらしい動きは発見できず、〈かい人21面相〉に便乗した動きだけだった、という結論に落ち着いた」。》
ということになってるという。グリコと森永の大株主らは、証券会社や証券取引所だけでなく、自社内で株を受け持つ者達にも檄を飛ばして空売りとかで何億円も儲けたやつがいないか調べさせていたのでないのか。そいつらに給料払ってきてたわけだし、
「見つけたらボーナスはずむぞ」
だとか言ってさ。だがその上で、
「そんな者はいない」
という結論になり、これに皆納得した。
 
ということはないんだろうか。グリコと森永の大株主が事件は株価操作が目的でなかったと言われて納得しているのなら、あの事件は株価操作が目的でない。
 
ということになりませんかね。どうでしょう。たびたびここで見せてきた『罪の声』のマンガ版に出てくるあのおっさんは、証券会社にとって大事な顧客なのか。
 
という問題にもなることになる。違うんじゃないか。あいつはそもそも、
【兜町の人間】
でなく、
【兜町のチーズを齧るネズミのような人間】
じゃないのか。原作小説にあのおっさんは、主人公の阿久津が新聞社内の経済部記者を頼り、その者が【週刊誌人脈から見つけてきた】人物として登場し、
 
   *
 
「現在は貿易会社を?」
 立花幸男の名刺を片手に問い掛けると、彼は分厚い手を振った。大手なのか中小なのかも分からない社名の下に顧問とある。
「友人が経営してる小さな会社で、名義貸しみたいなもんです。もう隠居の身ですから」
 
アフェリエイト:罪の声
 
なんてなことを言う。マンガ版でもほぼそのままに、
 
画像:罪の声マンガ版2巻名義貸しみたいなもん アフェリエイト:罪の声2
 
こうで、エンデンブシは実際にこんなのを見つけてじかに話を聞いてるのかもしれないが、
 
 
   「ウサン臭い」
 
 
とは思わんかったのかね。こいつは証券会社にとって、グリコや森永の大株主より果たして大事な顧客だろうか。
 
小さな会社に名義貸し「みたいなもん」をしてる「隠居」が? まさか天下の副将軍・水戸光圀公なのか。エンデンブシはこいつのことを「プロ」と書くが、プロと言ってもピンキリだろう。こいつは果たしてプロ中のプロか。
 
違うんじゃないの。〈キリ〉の方では? グリ森キミドリもグリ森グレーも同じくそれがわからんやつらで、自分が犯人を捕まえて、
〈刑事スーパー株〉
になりたい。その願望に狂ってしまってマトモな考えができなくなってる。証券会社は最大限の協力をしていたけれど、そうは言っても、
「いや、ここから先はちょっと」
というような線は引く。証券マンはレインボーマン。インドの山奥で修行して〈死ね死ね団〉の怪人と戦う力を身に付けたプロ中のプロ集団であり、ただの公務員でしかない自分の方が〈ヒーロー〉に協力する立場、『仮面ライダー』で言えば〈タチバナのおやっさん〉のようなものと知るべきなのに、それがわからずなんとしてでも〈刑事スーパー株〉になろうとするもんだから、
「もう少し捜査に協力してくれてもなあ……」
なんてことを言う。ただの身の程知らず。
 
ということはないんですかね。ええ? 『罪の声』の主人公・阿久津もまたマンガのおっさんと話した後で株価操作の線を追い始め、次の章でアッサリと【第一級の情報】を得る。三十何年も昔の話の警察も知らなかったネタをなんの苦労もなしに! それは一味が交わしていた無線の会話を録音したもので、
 
画像:罪の声142-143ページ第一級の情報
アフェリエイト:罪の声
 
こうだが、その次の章でまたマンガのおっさんを訪ね、その録音を聞かせると、
 
画像:罪の声192-193ページよくこんなの見つけるね
アフェリエイト:罪の声
 
こう言われる。マンガのおっさん・立花が映画版で、
「飯田橋からだと、有楽町線で南へ3駅」
と言う変なもったいつけ男なのだ。
 
 
犯人一味の中で〈牛若丸〉のコードネームを使う男が、無線でホープ=ハウス食品の空売りの仕込みの報告をしている。
 
 
作品名:端数報告5 作家名:島田信之