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端数報告5

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こんな組織があって日本を恐怖のズンドコに突き落とそうともくろむ陰謀だったのだ、ということにしてるとわかる。ねえ。だってこいつにも、
《その背後にはユダヤ系財源などヨーロッパの財閥たちが資金供与しているというのが裏設定のようです》
って書いてあるじゃん! いやマジメな話、陰謀論者にものを言わすと必ずこうなるんだよ。ふざけてないすよ。おれはマジメです。マジメにこういう連中は、こういうもんだと言ってるんです。なんだけど、ぐふふふ、ひゃははは。
 
うわーはっはっは、ああおかしい。と笑ったところで、しかしな、と考えてみよう。ケーブルテレビの映画版のCMは、もうやたらに暗かった。特になんだか、
 
   画像:罪の声CM姉弟らしき子供の写真
 
こんな写真が出て、
「この子供達は今どこでどうしてるんでしょうか」
というセリフが重なる。そして、
 
画像:罪の声CM攫われる子供 泣くおばさん 泣くおじさん 
 
子供が攫われるような画とともに、
「幸せに暮らしてますよね」
「生きてることを願うばかりです」
なんてオバサンとオジサンが映る。このオバサンが「ぐおおおお」といった声を発して床に突っ伏し、それからケロリとして起き上がると妙にかん高い声で言った。
 
   「わしがカメマルじゃ」
 
って、あまりの暗さに嘘をついてしまったが、にしてもなんなんだこりゃあ。
 
子供の写真に「この子供達は今どこでどうしてるんでしょうか」? と聞いて思い出すのが『NHK未解決事件 捜査員300人の証言』の本の、
 
画像:捜査員の証言307-308ページ3つの音声
アフェリエイト:捜査員300人の証言
 
このページだ。映画版のCMにも小栗旬が、
「ギン萬事件で使われた声は3つ」
と言うセリフがあるが、これをそのまま話に組み込んでるのだろう。『捜査員300人の証言』には、
 
   *
 
 警察は1の声を「三十代〜四十代の女性」、2と3を「小学校低学年の男児」とし、2と3の男児は同一人物と見立てて、捜査を展開した。
 
アフェリエイト:捜査員300人の証言
 
とある。
 
ところが2011年、NHKの番組のために3つの声を再分析したところ、
 
画像:捜査員の証言316-317ページ3つの音声
アフェリエイト:捜査員300人の証言
 
という。それまで言われていた、
 
画像:一味の推定1 これは間違いで、正しくは、画像:一味の推定2
 
こうだというのだ。この本はこれを、
 
「NHK取材班だから掴めた衝撃の新事実! これが当時にわかっていれば事件は解決できていたに違いない!!」
 
とし、番組でもそう見せようとしていたが、たぶん見た人は、
「ふうん」
としか思わなかったろう。おれもそうだし、本で読んでも、
「それがなんだよ」
としか思っていなかった。
 
けれどもエンデンブシって作家は、ここから話を作ってるのかな。『真犯人』の本は〈キツネ目の男〉を、
 
画像:真犯人284-285ページキツネ目は北朝鮮スパイ
アフェリエイト:森下香枝真犯人
 
こう書いている。
《Kも在日韓国人だが、若い頃から国内で北朝鮮のスパイ活動をしている連中とかかわっていた》
と。この著者が勝手にそういうことにしてるだけとしかおれには読んで思えないが、グリ森事件の5年から10年ほど前の北朝鮮スパイ活動と聞いて思い出すのが、なんと言っても日本人拉致だ。そしてまた思い出すのが、
 
   横田めぐみ
 
この名前だ。〈キツネ目の男〉はこの件にもかかわっていた。などとは別に『真犯人』は書いてないけど、この、
 
   アフェリエイト:罪の声
 
『罪の声』というお話は、そういうことにしてんじゃないのか? 〈事実に基づくフィクション〉なのをいいことに、そんな星座を描きあげてるんじゃねえか? 主人公の新聞記者が最後に掴んだ衝撃の真相。犯行グループの背後にいたのは、
 
画像:金日成の銅像 不肖・宮嶋史上最低の作戦表紙
 
この男だった。いや、手前に立ってるのでなく、後ろの銅像である。金日成。もしくはその息子の、
 
画像:金正日 不肖・宮嶋金正日を狙え表紙
 
こいつだ。事件は日本を恐怖のズンドコに突き落とそうともくろんだ北朝鮮の陰謀だった。3人の子供のうち、
 
   画像:罪の声CM姉弟らしき子供の写真
 
このふたりは半島に送られている。それを知らされた両親は、「うおおおおん」と泣いて突っ伏し、それからケロリと起き上がって、
 
   「わしがカメマルじゃ」
 
と言う。いや、言うわけないが、原作本の結末ってそういうもんだったりしねえの? 何しろ映画版のCMには、〈キツネ目の男〉の若い頃の写真、というもんらしきものとして、
 
画像:罪の声CM〈キツネ目の男〉の若い頃の写真(たぶん白で囲んだ男)
 
こんな画が出るのだが、これはまさしく日本人が北朝鮮に連れ去られてた時期ということになる。〈キツネ目の男〉の名前を〈金田貴志こと金貴成(キムクイソン)〉なんてもんにしてるってことは、拉致部隊の一員だったとしてるということ……。
 
なんじゃないのか? 『真犯人』とNHK『未解決事件』からいただいたネタをふくらました結果、そんな話を作り上げてる。まあ小説なんだから、どんな話を作ろうと自由だけれども。
 
しかしそれにしてもねえ。いや、読んでないんだから、どうなのかは知んないけども。
 
 
   あの事件は北朝鮮の陰謀だったという
   ことにすれば、不可解性を説明できる。
 
 
かねえ。いや、おれはそういうことは、まったくないと思うんだけど。株価操作で稼いでた、なんてまるきりバカげているうえ、丸大やハウスの脅迫ではやってないことの説明がない。むしろこの2件では、頑張ってカネを奪ろうとしている。NHKの再分析を別に疑うわけじゃないが、ひとりの学者がそう言ってるだけなんだろ。
 
「NHK取材班だから掴めた衝撃の新事実! これが当時にわかっていれば事件は解決できていたに違いない!!」
 
ということにしたいからその報告を〈確かなもの〉としているわけだ。でもねえ。ひとりだけでなく、3人くらいの学者に別個に分析させて意見を交わさせてみたらどうなの。『マイノリティ・リポート』の、映画でなくフィリップ・K・ディックの原作短編小説みたいに。
 
アフェリエイト:トータル・リコール
 
他のふたりは全然違う分析をするかもしれないじゃないか。いや、おれはその先生を疑っているわけじゃないよ。ただ、ひとりが言うだけのものを〈確実〉とするのがおかしいと言うんだ。オーケンみたいに簡単に、
 
   *
 
大槻「それは、もう、科学的にも……」
遠藤「証明されてんの」
大槻「証明されてるのに、検事側は認めようとしてないわけでしょ」
遠藤「そのとおり、そのとおり」
大槻「いや、これ読んでちょっとゾーッとしましたよ」
 
アフェリエイト:のほほん人間革命
 
なんていうのはおかしいと言うんだ。〈女の声〉が〈実は少女の声だった〉でも別にいいんだけど、だからと言ってグループの中に30から40代の女がいなかったことにもならない。なのにNHKはそうしてしまっている。
 
作品名:端数報告5 作家名:島田信之