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「ワタシは市民の陳情に応えねばならぬ立場なんですよ。ワタシを頼って『これではもう生きていけない。自分に自殺しろと言うのか』と言う人に、なんと返したらいいんですか」
 
「しょしょれはボクの関知することじゃないですね。しぇしぇん門的なはなぴをふゅるとごにょごにょごにょごにょ……」
 
誰に訊いてもこんな調子だが、どうも訊くたび質問の答がしどろもどろになってく気がする。『日本のいちばん長い日』って映画の、黒沢年男のハタナカ少佐と話をしているような気がする。最初からどうもイッちゃってる感じだが、話が進んでいくごとに支離滅裂になってくあれと同じような……。
 
皆さんは、コロナの話を聞いててそう感じることはありませんか。〈8.15〉は〈9.11〉のビルのように、嘘がガラガラと崩れた日だ。死んだ人には気の毒だが、あの光景はいま見て笑える。特にア然ボー然としているニューヨーク市民がどうも。
 
だからと言って人殺しはちょっとねえ。いかんと思うよ。おれが言っても説得力がないかもしんないけどさ。なんでも世の中、おれもこないだ書いた映画のジョーカーに憧れて人を殺すやつがいるとかいないとか。憧れるなよ、あんなもんに。殺すなら、池上彰とかなんやかんや、殺した方がいいやつがいくらでもいるだろ。
 
それをなあ。浅田次郎の『初等ヤクザの犯罪学教室』って本には、人を殺した人間はムショで気味悪がられるだけだ、ということが書いてあった。前に見せたね。それに対して、グリ森事件の犯人達は誰も殺したわけではない。
 
たとえば、
 
 
   画像:加藤譲ちょっとでも肉付けしたいという思いで
 
 
こんな人間が、無差別大量殺人鬼のように人に見せようとしただけのことだ。『キツネ目』の本も毒入り菓子で死ぬ人間が出なかったのは奇跡的な幸運で、本来ならば何万人も死ぬはずだったのがそうならずに済んだのは自分達マスコミの力と言わんばかりだが、ウジ虫どもめ。
 
グリ森事件の犯人達はクレバーであり、クールでスマート。ジョーカーみたいにえげつのうやつとちゃうねん。〈彼ら〉は前回見せたように6千万の次が1億2千万、その次はさらに高額と、回を追うごとに要求を吊り上げていた。
 
1億2千万の次が下にスキャンして見せるように、
 
画像:キツネ目102-103ページ
アフェリエイト:キツネ目
 
こうだ。1億2千万の倍で2億4千万。プラス6千万で計3億! パンパカパーン! 成功してればこれも〈三億円事件〉だ! しかし〈プラス6千万〉が「CM料」とはどういうことか。
 
『キツネ目』の著者はここに見せた通り、
《お門違いの妥協案》
と書いただけで片づけて、考えることもしてないようだ。そしてカネを手にできてない焦りの表れなのだとしている。
 
が、どうだろう。この手紙で一応は裏取引に持ち込むことに成功し、ただし受け渡しに失敗。そしてその後、
《けいさつが たよりに ならんこと やっと わこうた らしいな》
との手紙を寄越し、取引のやり直しをしようとする。
 
が、グリコは気を変えていた。前に書いたように警察に謝罪、次はまたも鈴木邦芳率いる府警特殊班が指定の場所に待ちかまえることになる。
 
のだが、しかし、〈彼ら〉の方が上手だった。一連の事件の中でも有名なことに、その取引は、
 
画像:キツネ目より関連年表6月2日の件
 
こうなって終わる。カーッコいーい! 〈彼ら〉が焦っていたのなら、こんな展開をするかねえ。むしろ、3億円というのが、最初からの目標額だったのではないかという気さえおれにはしてくるが。
 
で、「CM料」とは何かだ。首尾よく3億いただいたら、実はもともと、
 
 
   画像:グリコの看板を見上げる上川
 
 
この看板を世界的に有名にするのが目的だったことを世に明かす。関西人の関西への愛のイタズラだったのだと。すると、
「なあんだ」
ということになってそれまで怨恨だのなんだの言った連中や、《ナカマがいる》を本気にして内部調査なんかしていた警察や、
「創業者の江崎利一は生前何か途轍もなく悪いことをやっているとボクは見ますね。誘拐だの放火だのされるのがその証拠ですよ」
だとか言ってた識者は面目丸潰れ。もちろん放火も、
 
   「あれはわしらのしたこっちゃないで。
   報道に刺激されたアカウマやろう」
 
となって、もちろん人々が「そうだったのか」と言って頷き、マスコミが世の非難を浴びることになる。これに対して「嘘だ。放火もやつらが」とか「元はと言えばやつらが悪い」なんてことを言おうもんなら「何言ってやがる」だ。そしてグリコの製品は、〈彼ら〉が手紙に書いた通り前よりもよく売れるようになりましたとさ。
 
というのが「CM料」という言葉の意味だったのではないか、と、おれは今に考えるのだが果たしてどんなもんだろうか。
 
むろん真相は藪の中。〈彼ら〉の思い通りにはならなかったのも確かな今にはすべて想像の域を出ない――と言ったところで今日はおしまい。最後にまた宣伝だけ。
 
画像:図書館の本を濡らしたら(と6つの短篇)表紙
https://books.rakuten.co.jp/rk/c0ece09decea3050b225c2ac729aa740/?l-id=search-c-item-img-01
 
作品名:端数報告5 作家名:島田信之