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《恐怖心を担保に取》り、《マインドコントロール下でカネを払わせる》
計画だった、なんていう己のイカレた考えに縛られるために何も気づかず、事件から三十何年も経つ今もこんな変なこじつけをしてる。犯人憎しの感情のために事件を正しく見ることができない――それがおれの新たな読みだが、ともかく、その4月8日、「6千万を持って」という要求をしていた指定の場所に〈彼ら〉はまたも現れなかった。
 
なぜか、と言えば最初から、これはフェイントかジャブの意味合いが強い脅迫だったのじゃないかというのがおれの読みなのは、ここに再三書いてきた。グリコに裏取引をさせることができるかを探るための要求であり、ハナからあまり期待してない。もし奪れたならそれで成功ということにするが、パチンコで玉を一箱獲って終わってしまったようなもんで、あまりおもしろくないな、というような考えでいた。
 
というのがおれの読みだった。それは変わってないのだけれど、6千万円。一万円札が6千枚。
 
百万の束が60個。それはどんなものだろう、と思っておれのイチロートランクに文庫本を60冊入れてみることにした。薄めのものを選んだが、
 
画像:イチロートランクに本
 
あれれ、45冊しか入らん。まあ参考にするぶんにはいいだろう。量ってみると9キロになるが、提げて歩けぬ重さではない。受け渡しの場所から数百メートルのところにクルマがあるものとして、そこまで提げていくには苦にならんだろう。それ以上はキツそうだが。
 
6千万ならおそらく10キロというところ。片手に提げて歩ける限界と言えるだろう。この金額がそれを考えて決めた見込みも、だからあると言ってよかろう。
 
おわかりだろうが、帝銀事件で現場に残されたカネについて語る者は、この程度の検証さえしてみないで、
 
画像:毒殺88-89ページ
画像:毒殺表紙
 
こんなこと言っている。「残されたカネは不自然」の話は後から出てきたもので、現物を見た人間にはそれが運べるものでないのは一目瞭然のはずなのだ。
 
それはさておき、我らがブラック・ジャックズは、この6千万の後で要求額を吊り上げるのだ。次に来る4月15日の手紙には、前に見せなかった部分に、
 
画像:キツネ目90−91ページ
 
こう書いてあったという。
 
青の枠で囲ったのが今まで「こう書いてあった」とおれが書いてきた部分。で、赤枠が今に注目してほしい箇所だが、要求は2倍の1億2千万! カネもろたらお互いに縁切れだけど、逆ろうたらさらに吊り上げるで、という。
 
で、実際にそうするわけだ。カーッコいい! やるぜあんた達、もう最高。おれはもう、尊敬の眼(まなこ)ギンギンだね。ああ、こんなにおもしろい事件だったなんて。当時は再三書いたようにまわりのやつらが騒ぐ話を聞いてもサッパリだったけれど、どいつもこいつもどこに目をつけてやがったんだか。
 
これをテレビや新聞にかじりついて見ながら「うむむむうっ」とうなって、
「不可解だ。不可解の極みだ」
とか、
「なんという卑劣なやつらだ。許せない。断じて許すことはできない」
だとか言ってた世間のバカどもの感覚をほんと疑うよ。
「カッコいい。次は何やってくれるんだろう」
とひたすら思って見るもんだというのがなんでわかんないかな。
 
でもって未だにそうなわけか。なんでこうなるんだろう。
 
 
   画像:加藤譲ちょっとでも肉付けしたいという思いで
 
 
やっぱりこいつのせいだろうか。でもってこの要求に、グリコが警察と相談のうえで「取引に承諾」の合図を送ると、
 
画像:キツネ目94-95ページ
 
このような手紙が来たという。その1億2千万を加藤運転手に運ばせろ、という前に見せたのと同じものだが、ただし赤で囲ったところだ。ここにある通り、
《白か アイボリイの カローラで こい》
と書いてある。
 
白かアイボリーのカローラ。
 
画像:パトカー1 パトカー2
 
まさかね、といったところで今回はおしまい。おれは矮小な人間なので、
 
画像:スタンレーの魔女初コメント 画像:スタンレーの魔女表紙
https://2.novelist.jp/80263.html
 
このようなコメントが集められればそれで満足である。前にも、
 
画像:貴方と私の獄中結婚レヴュー 画像:貴方と私の獄中結婚表紙 
このようなコメントをいただいたことがあったが同じ作を始めのとこだけ、
 
https://novelist.jp/92180.html
 
このリンクで読めるようにしました。全文を読みたい方は次をどうぞ。
 
画像:図書館の本を濡らしたら(と6つの短篇)表紙
https://books.rakuten.co.jp/rk/c0ece09decea3050b225c2ac729aa740/?l-id=search-c-item-img-01
 
作品名:端数報告5 作家名:島田信之