かいなに擁かれて 第五章
「誰でも過去の繋がりはあるわ。新しい繋がりだけで過去を断ち切ることなんて出来はしない。離婚なんて紙切れの手続きよ。ワタシだって二度も経験しているわ。だけどそれで全てを断ち切ることなんて出来はしない。築きあげた遺したモノが存在するなら今の関係がどうであったにしても、人としての繋がりまで断ち切れるものじゃないと思う……」
「お前がどうして、こんなにも? 関係無いとは言わない。だけど――、もしかして、魅華には何かが視えているのか? それなら今、教えてくれ。何なんだ? 魅華」
「何も視えてなんかないわ。ただ、行くべきだと思っただけ」
《彼と付き合わないで。返して――》
この部屋に来るたびに魅華には叫びが聞こえていた。
「お願いだから、すぐに行ってあげてね。ワタシはこのまま帰ります。それと、しばらくコンサートの準備で忙しくなるからごめんなさい。アナタも忙しくなると思うけど……」
ソファから立つと魅華は玄関に向かった。
「魅華――、とにかく行ってみるよ」
裕介は魅華の背に声をかけた。
「うん。お願いだから、そうして」
玄関ドアを開くと廊下に燦々と眩しい朝日が射しこめていた。その中を抜け魅華はエレベーターホールに向かった。
次章へ続く
作品名:かいなに擁かれて 第五章 作家名:ヒロ