プレゼント・プライド (おしゃべりさんのひとり言 その70)
プレゼント・プライド
「木田さん、タイ、好きですか?」
「タイ?」
「ずっと木田さん家に持って行けたらと思ってて、でももし釣れなかったらダメなんで連絡してなかったんですけど、昨日旦那がいっぱい釣って来たんで」
「ああ、鯛。それはうれしいな。少しお裾分け貰えるの?」
「一匹まるごと差し上げますよ」
5年ほど前に結婚退職した“お気に入り”の元部下が、先日新鮮な鯛を自宅に持って来てくれた。
旦那さんの趣味が釣りなのに、ブラックバスにしか興味がないって聞いてたけど、最近は海釣りにはまったらしく、実用的な趣味になったって彼女も喜んでた。
僕はお返しに、ちょうど長野でセレクトして来ていた、いろんな種類のリンゴセットを準備しておいたら、ニッコニコ喜んでくれた。
彼女の実家の家族もリンゴ好きなの知ってたから、贈りたいなって思ってたので、ちょうどよかったってわけ。
そしてこの女性の妹さんもまた、僕のお気に入り。
妹さんは、長編作『~~~幸せの1/2』に書いた、家業の農園を継ぐために退職した美人主任のことなんだけど、ついこの前、僕は北海道に行く機会があって、お土産に小樽で有名な蒲鉾セットを送っておいたら、お返しに実家で収穫した黒大豆の枝豆を送ってくれていたんだ。
これ毎年貰っちゃうんだけど、今年のは粒が大きくてもう最高。黒い枝豆だけじゃもったいないから『黒枝豆ごはん』にしたら、それも絶品だった。
それで妹さんにもこのレシピ教えたら、その2歳の長男が大喜びでいっぱい食べたって聞いた。
こんな感じで姉妹して今も、家族ぐるみで親しく付き合ってくれているってわけ。
こういう人間関係っていいですよね。
それに贈り物って関係を深めるし、さらに継続させる。
よくよく考えたら、僕はプレゼントが好きなんですよ。
自分が良かったのもは人にも紹介したい。
「使ってみてみ、食べてみてみ、行ってみてみ、見てみてみ」
プレゼントしても「喜んでくれた経験なんかない」って人いる?
大抵は喜ばれるでしょ。嫌な顔されることってないもんね。
それは、(お愛想の笑顔なだけで、本心は・・・)なんてこと考えない。僕は。絶対。
プレゼントは相手がどう思っていようが関係なく、贈りたくなるんです。
時には迷惑だったりするのかも知れないけど、不要なら他所に回してくれてもいいし。
相手のことが好きだってことぐらいは伝わるでしょ。
逆にプレゼントをもらう時って、どうしてこれを僕にくれたのかなって考えると、凄く面白いんだよね。
休憩時間に事務所に来て、ちょこっとチョコをくれる人がいたり。
旅行のお土産でも、クッキーとかを「皆でどうぞ」って人が、誰もいない時に僕にだけ別のお土産くれたり。
相手の気持ちとか、僕に対してどう考えてくれてるのかとかが想像できちゃうし。必ず嬉しくなる。
冒頭の鯛は、海釣りに行って鯛がたくさん釣れたから、僕にもくれたってことだけど、その中にヒラマサ(ブリに似た青背の魚)の切り身が4分の1身分入ってた。
きっと鯛一匹じゃ芸が無いから、他にも色を着けてくれる気持ちが嬉しいじゃない。
ちゃんとさばいた切り身を入れることで、「魚さばけるんだよ」アピールだったのかもしれない。
僕にしたら「お前、魚おろせるの?」って驚きだったもん。
ちょっとの工夫を感じられると、その相手とのいい人間関係を実感出来るでしょ。
それは家族間でも同じ。
毎年、妻と娘の誕生日、クリスマス、ホワイトデー、母の日には、プレゼントを買ってやることにしている。
こういうことを言うと、「家族にプレゼントなんか必要ない」って言う人が多い。
そう言われると、僕自身ちょっと寂しい気分になるし、嬉しがって話そうとしてたのに、話題を変えないといけなくなる。
でも僕はずっとこのプレゼントの習慣を続けてるんだ。
金銭的に余裕がない時期は、それなりのもを贈ってた。
妻には安い服とか、手作りのアクセサリーなんかでお茶を濁してた時代もあったし、娘が小さいと安く付いてたけどね。
最近じゃ段々エスカレートして、妻に10万以上するグッチのショールだったり、娘に2万もするフルラの財布だったり。結構お金はかかる。
結婚20周年記念に、ハリーウィンストンの指輪を買おうと計画していたら、「指輪は要らないからバッグにして」って、40万もするヴィトンになったこともあるけど、カバンばっかり何個要るんだ?
何万もするアクセサリーより、実用的なヘアートリートメント器具を希望されたり、美容クリームのセットだったり、妻の好みは僕のチョイスにそぐわないことが多い。
娘にはipadを買ってやったり、通学用に1万5千円もするニューERAのリュック、毎年学校の制服に合うセーターやコートを買い替えたりして・・・
よく考えたら実用的なものばかり買ってやっているな。
(記念日のプレゼントなのに)って思うけど、相手が喜んでるならいいかと思う。
・・・あれ? ちょっと待てよ。
アクセサリーも結構買ってやってるはずだぞ。ここ2~3年でも。そんなに高い物じゃないけど。
妻に4℃のダイヤのペンダント、パールのネックレス、カバンのチャーム類。
娘にはピンクゴールドのベビーG、指輪やイヤリングなんか何個買ったかな。
それらは記念日だから買ってるんじゃない。休みの日にアウトレットとかに行く度に。
平日でも気にせずネットで買ってしまってる。しかもラッピングのオプション付きで。
アクセサリー類は、プレゼントとして普通に当たり前。それはおねだりすれば買ってもらえるって知ってるから、記念日にはちょっと普通じゃ買えないような高い日用品を要求してるんだな。
・・・でもよーく考えたら。
今年、僕の誕生日に買ってもらったのは、娘ちゃんチョイスの靴下3足だった。
去年の誕生日は、電子楽器の『EWI』っていうサックス型のシンセサイザー。
・・・を希望していたのに、まだ買ってもらってない。
・・・・・・ま、いいか。
妻には、家のことは本当に良くやってもらってるし、それにはすごく感謝してる。
娘も遊ぶ暇なく、勉強ばかり頑張ってるし。
たまには(しょっちゅう)プレゼントで喜んでもらおう。それで十分、僕も満足だ。
それであの事を思い出した。
鯛をくれた姉妹のお姉ちゃんの、結婚式の祝辞で送った言葉が、まさにそれだった。
僕はその旦那さんに対して、
「彼女はきっと人に対して世話を焼いてしまう性格だから、旦那さんは奥さんを大切にしてあげてください。プレゼントもいっぱい買ってあげてくだくださいね。だって、妻の宝飾品は夫のプライドですから・・・」
この言葉は今も、その日出席した女性たちから、話題にされる。
つづく