Evasion 2巻 和洋折衷『妖』幻想譚
「わぁーいっ」
リルの弾む声に、空竜はブワッと空色の毛を逆立てると一目散に逃げ出した。
飛び立った瞬間の空竜に、普段よりずっと俊敏な動きでリルが飛び付く。
「くーちゃん久しぶりーーっ」
ガシィッと音が聞こえそうなほどにガッチリとホールドされて、白目をむく空竜の口から「キュィィィィ」と儚げな声が漏れた。
「会いたかったよー……」
ふかふかの空色に顔を埋めて、リルが告げる。その声が滲んで聞こえて、空竜はリルの顔を見た。
ぎゅっと閉じたリルの目尻にじわりと浮かんだ涙。
それを、空竜は舌を伸ばしてペロリと舐めた。
リルは驚いたように空竜を見て、それから感極まったように瞳を潤ませる。
空竜は、とても嫌な予感がした。
リルは空竜の予想通り、さらにむぎゅうううと空竜を抱きしめる。
「ギュイィィィィィィィィ!!」
という空竜の断末魔を聞きながら、久居は苦笑した。
離れていた間、リルは頻繁に空竜の心配をしていた。
街に連れて入っては目立つからと、街の外で待機をしていた空竜が、ちゃんとご飯を食べているだろうか。と。
雨が降れば、濡れていないだろうか。
夜になれば、寂しくないだろうか。
そう心配するリルの方が、随分と寂しそうだったと、久居は思う。
二人と一匹は、再会を喜び合い、カロッサの元へと戻った。
作品名:Evasion 2巻 和洋折衷『妖』幻想譚 作家名:弓屋 晶都