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circulation【5話】青い髪

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「おまたせ」

 カランッとドアベルの音を響かせて、デュナが店から出てくる。
 私が「おかえり」と答えると、スカイも「お疲れ」と続く。
 私達三人がたむろしていたのは、この村唯一の薬屋の前だった。

「まあ、そこそこの値段で売れたわね。とりあえずこれでご飯を済ませてから、今日は隣の町まで行くわよ」
『そこそこの値段』という部分を話すときにだけ
 デュナの眼鏡が怪しく輝いていたのが気にならないと言えば嘘になるが、ここは黙っておくことにしよう。
 スカイはフォルテと話していて気付かなかったようだし……。

 ランタナまでの道は、そのところどころがモンスターの生息地帯にかかっているため
 時々道の脇から飛び出してくる敵を倒しつつ、進む事になる。
 ただ、その分経験値も稼げるし、ドロップアイテムもあれこれ拾う事ができるので、時間に余裕のある初級冒険者達にとってはそこそこ美味しいルートなのだろう。
 すでに今日だけで相当数のパーティーとすれ違った。
 中級者以上になってくると、二人パーティーや三人パーティーの方が多くなってくるのだが
 私達くらいの歳の初級者パーティーは五〜八人ほどでわいわいと組んでいることが多く、活気に溢れている。
 そういえば、デュナが最初に所属したパーティーは、五人パーティーだったっけ。

 まだ私もスカイも学生だった頃だ。
 確か、男の人が三人で、女の人がデュナともう一人。
 職業は、剣士が二人に、弓手、魔法使い、聖職者、だったよね。
 十三歳の私から見た十七歳のデュナはとても大人びていて、そんな彼女と一緒に旅をする仲間達も、やはり大人っぽく見えたものだった。

 時々ぞろぞろとクエスト帰りに家に遊びに来たりして。
 ……気付けば三人パーティーになっていたのだけれど……。
 デュナにそれとなく訳を聞いても「よくあることよ」とそっけなく返されて、それ以上は怖くて聞けなかった。
 居なくなってしまったのは、スラッと背の高い、柔らかい笑顔が印象的な剣士さんと、いつも明るくパーティーを支えていた可愛らしい雰囲気の聖職者の女の人……。

 そんなことを考えながら、すれ違う冒険者達の背中を見送っていると、後ろからスカイに声を掛けられる。
「どうかしたか?」
「あ、ううん。なんでもない」
「知り合いでも居たのか?」
「ううん。ちょっと、今の人がレクトさんに似てた気がして……」
 ポロリと名前を出してしまってから慌ててデュナを振り返る。
 幸い、デュナはもたもたしている私達に構わず先へ進んでいて、ずいぶん距離が離れていた。

 レクトさんと言うのは、デュナのパーティーでリーダーを務めていた剣士さんで、その……居なくなってしまった人だった。
「あはは、あれじゃ若すぎだろ。今もうレクトさん二十五歳くらいじゃないか?」
 屈託のない笑顔でスカイに返されて、一瞬思考が停止する。
「レクトさん、かっこよかったよなー。
 俺も、来年は剣士になって、あんな風にしてるんだろうなーとか思いつつ見てたよ。
 ま、実際は剣士じゃなくて盗賊になってたわけだけど、な」
 最後の笑みは自嘲だった。
 スカイはこの話をするとき、いつも悔しそうな悲しそうな顔をする。
 あれだけ小さい頃から、口癖のように「剣士になる」と「父さんのような立派なパラディンになるんだ!」と繰り返していたスカイが、どこをどう間違って盗賊になってしまったのか。

 スカイの学生の頃の友達は皆、一人残らず、盗賊になったスカイを知ると問うのだった。

 黙り込んでしまった私のマントの裾を、フォルテが引っ張る。
「ラズ……?」
 私はきっと、あからさまに混乱した顔をしていたのだろう。
 慌てて顔を上げると、スカイが神妙な顔で覗き込んでいる。
「……前から気にはなってたんだよな……」
 ぼそり。と呟くようなスカイの声。
「ラズ、もしかして、レクトさん死んだと思ってないか?」
「えぇ?」
 私の発した声は、単語でこそなかったものの、
 その裏返りっぷりから、スカイの問いにあからさまな肯定を返していた。
「おいおい、やっぱりか」
 小さく息を吐いたスカイが、青い前髪を指に絡めて困ったような顔で掻き上げる。
「あの人死んでなんかないって。
 なんだっけ、あの、名前……同じパーティーだった聖職者の子と出来ちゃった引退だよ。
 まあちょっと、早すぎる引退ではあったけどな」
 笑うスカイの瞳は、いつもと同じ深いラベンダー色で、彼の言葉が本当なんだと実感させられる。
 聖職者の女の人……確かリディアさんという名前だった気がするけど……。
 じゃあ、私は、かれこれ五年間も、幸せに引退した二人を死んだものと思っていたのか……。

「あんた達、いつまで立ち話してるの。日が暮れるわよ!?」
 いつの間にか立ち止まっていた私達に、業を煮やしたデュナの警告が飛ぶ。

 見上げた太陽は、すでに夕日にその姿を変えようとしていた。