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circulation【5話】青い髪

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 扉を開けてすぐの階段を降りると、地下にはそれなりに幅のある通路が続いていた。
 大人が横に三人は並んで走れるくらいの広さだろうか。
 天井はそう高くなかったけれど、よほど背の高い人以外は屈まず歩ける高さがあった。

 石畳状の通路を、風の精霊の力を借りて足音を立てずに進む。
 デュナは、既に一本目の精神回復剤を口にしていた。

 少し進んだ通路の正面は行き止まりになっていて、左右に扉が一つずつと、さらに地下へ続くであろう階段があった。

 左右の部屋に誰もいないのを確認して、私達はさらに地下へと進む。

 偵察に出した精霊の話によると、次の部屋には
 座っている子と倒れている人が一人ずつに、立っている人が三人いるらしかった。

 座っている子、というのが少し小さい子供を指すようなニュアンスだったので、それがフォルテだとすると、倒れているのはスカイだろうか。
 それよりも、さらに二つ程奥の部屋に、人がたくさんいるという報告の方が気になるのだが……。

 デュナは、障壁の準備を済ませた上で、水の精霊を肩口に携えていた。
 こう地下に潜ってくると、風の精霊は呼び出しが難しくなってくる。そのせいだろう。
 部屋に近付くにつれ、男性の話し声が聞こえてくる。
 扉の無いその部屋へ、私達は物陰に隠れつつ這うようにして侵入した。
 案外広さのあるその部屋は、生活用品なんだか盗品なんだかわからないような
 ボロボロの家具にその三分の一ほどを埋め尽くされている。
 おかげで身を隠す場所には不自由しなかったが、盗賊崩れ達は一体どんな生活をしているのだろうか。

 一番奥、部屋の隅にある古びたソファー。
 所々綿がはみ出している、一人掛けのそれに、フォルテは座らされていた。

 足と手を括られてはいたものの、布を巻いた上を括られる丁寧ぶりで、怪我をしている様子も無い。
 相変わらず意識は失ったままのようだが……。薬で眠らさせているのだろうか。
「こいつ、どうするんスか」
 フォルテの少し前に立っている三人の男が揃って下を見ている。
 おそらくそこに、倒れた男というのが横たわっているのだろう。
「アジトの場所までバレちまったからには、生かしてはおけねぇな……」
 頭に紺のバンダナを巻いている男が、両脇の男達より少し責任のある立場のようで、その男の発言に、両脇の男達がごくりと唾を飲んだ。
「殺しはやらないんじゃなかったんスかお頭!!」
 片方の男が縋るように声を上げる。
「半殺しにしたところで治癒されてしまえば同じだしな、殺っちまうしかねぇよ」
 もう片方の男が小さく呟く。

「う……」
 三人の足元で、倒れている男のものと思える呻き声がする。
「お前等……フォルテを……どうするつもりだ」
 それは間違いなくスカイの声だった。

 中央の男がふいに屈むと、スカイの頭を鷲掴みにして引き上げる。
 真っ青な空みたいなスカイの髪は、赤黒く染まっていた。

 痛みに顔をしかめて声を漏らすスカイを覗き込むようにして男が告げる。
「冥土の土産に教えてやろう。お前等が隠しもせずに連れ歩いてたあれはな
 コレクター達が喉から手が出るほど欲しがる希少種なんだよ」
 男は、乱暴な口調で吐き捨てるように続ける。
「世の中にはおかしな趣味を持った金持ちってのが大勢居てな、金をいくら積んでもいいだなんて言われちゃ、やるっきゃねぇだろ?」
「じゃあ、フォルテは……」
 ボロボロになったバンダナに遮られて、スカイの表情は見えなかった。
 怒っているのか、それとも……。
「まあ、死ぬ事はねぇだろ。少なくとも、飼い主が飽きるまではな」
 デュナよりも濃いラベンダーの瞳が、ギッと音がしそうなほどに男を睨み上げる。
 その視線を受け止めて、男がスカイを見下して嘲る。
「お前も運のねぇ男だな。俺達は人殺しはしない主義だってのによ」
「ハッ。そんな事、人攫いに言われてもな」
 強い口調で返すスカイの腹に、男の拳が突き刺さる。
 一瞬、海老のように背を丸めてから、激しく咳き込むスカイ。
 その口からは赤い雫が滴り落ちている。

 スカイ!!!

 叫びそうになるのをぐっと堪える。
 ギリッと何かが軋む音が近くで聞こえた。
 隣を振り返ろうとして、止める。

 私が見ればきっとデュナはなんでもない顔を装おうとするだろう。
 耳に入った音は、デュナの歯軋りだ。
 声が上げられなくても、せめて悔しい顔ぐらいしていいと思う。
 デュナの大事な、たった一人の弟が目の前で殴られているんだから。

「最後に言っておくことはあるか?」

 男の問いに、スカイは大きく息を吸い込むと、ありったけの声で叫んだ。

「ねーちゃんっっ!!!!」

 地下の一室に、スカイの悲痛な叫びが反響する。
 その声に反射的に立ち上がるデュナを、私には止められなかった。

「何大声出してるのよ、恥ずかしいわね!!」
 いつものように胸を張り、スカイを指差して怒鳴るデュナに、盗賊崩れ達の視線が集まる。
「こんなトコで呼んだって、外に居たら聞こえるはずないでしょ!?」
 ……そんな事、これだけ間近に潜んでた人が言うのもどうかと思うけれど。

 突然の事態に動きを止めた三人の男達の間で
 まだ頭を掴まれたままのスカイが、傷だらけの顔をふにゃっと崩す。
「……ねーちゃんなら、呼んだら来てくれると思った」
「それ、本気で……」
 心底安心しきった表情で真っ直ぐ姉を見つめるスカイに、デュナが溜息をついた。
「…………言ってるわね」
「実際来てくれたし」
 満足そうに答えた後、どこか遠くを見るように目を細めるスカイ。
「……あの時も、来てくれたし」

 あの時……?
 ああ、もしかして、スカイの基地が崩れた時の事かな。

 私が気を失った後、雨の中私達を探しに近くまで来ていたデュナが
 スカイの声を聞きつけて、私達を発見したって聞いてたけど。

 つまりその時もスカイは、デュナを呼んでいたという事か。

「女! どこから現れた!!」
 それまで固まっていた男が、ようやく声を上げる。
「アニキ、あいつは魔法使いなんスよ」
「何!? じゃあ魔法でココに……」
 時々、魔法使いは何でもできると勘違いしている人に出会うのだけれど、彼らはどうやらそういうタイプの人間らしい。

 デュナも説明が面倒だったのか、そこは完全に無視したようだ。
「よくも、私のモルモット(実験動物)に傷を付けてくれたわね」

 ……そこは、せめて弟って言ってあげた方が良いんじゃないだろうか。

 やっと反応を示した男達へ、水の精霊が宿った腕を向けるデュナ。
 次の瞬間、男達は大量の水に押し流されるようにして壁に叩きつけられていた。
 頭を掴まれていた手を途中で離されて、ボトっとスカイが石の床に落下する。

 受け身もろくに取れずに、小さな呻きを上げる弟の姿を見て、こちらまで自力で移動させるのは無理だと判断したのか、デュナが私に指示をする。
「治癒お願い!」
「うん」
 返事をして、部屋の隅から家具を避けつつ真ん中まで駆け寄る。
 私の後ろを歩きながら、デュナが何か唱えている。
 私がスカイの傍に膝を付くと、周囲を障壁が取り囲んだ。