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Evasion 1巻 和洋折衷『妖』幻想譚

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 久居は、間近で起こった爆風にも似た衝撃波にその身を煽られ、近くの木の幹へ強か背を打ち付ける。衝撃に、久居は息を吐いた。

 リルは、青白い炎を纏ったまま、立ち尽くしている。

「菰野……」
 金色の瞳から涙を零しながら、フリーはその名を呼んだ。
 菰野の傍にしゃがみ込むフリーは、両手で菰野の左手を包んでいた。
 ぽかぽかとあたたかかったはずの手は、今その熱を失いつつある。
(菰野……)
 フリーの心に、菰野の言葉が響く。
 あの時、痛みを堪えて、笑顔を見せて、彼は優しく言った。

『言うなれば、運命だったって事なのかな?』

 それは、彼との出会いを指していたはずだったのに。
 フリーが心ときめいた言葉が、こんな別れを示していたなんて、少女には思いたくなかった。

(こんなのが運命だなんて、嫌だよ……)

 どんどん冷たくなってゆく菰野をどうする事もできず、フリーはその手を引き寄せて、心で叫ぶ。

(こんな運命なら……っ、いらない!!)

 明確に、フリーは拒否した。
 この事実を、この現実を、私は決して受け入れない。と。

 フリーの髪の左右に下がっていた一対の封具に、同時に亀裂が入る。

(お願い、菰野!! 死なないで!!!)

 強い強い願いが、握り締めた手を中心に、球状に広がる。
 それを抑え切れず、二つの封具は少女の背で砕け散った。

 フリーが祈りを込めてギュッと閉じた瞳から、涙がもう一粒零れる。

 けれどその雫は、胸の前で握り締める手に触れる前にピタリと空中で止まった。



「う……」
 小さな呻きは、久居の口から漏れた。
「菰野様!!」
 覚醒とともに叫んで立ち上がろうとした久居が、ふくらはぎを抉る痛みに息を詰める。
「っ!」
(菰野様は……)
 よろめきながらも何とか自身の刀を支えに立ち上がり、見回すと、少し先に主人は倒れていた。
 血の海に、沈むようにして。
(酷い怪我を……!!)
 駆け付けた久居を、青緑色の膜が阻んだ。
(この膜のような物は一体!?)
 菰野とフリーの姿は、淡い色のついた球体……と言っても半分は地面の下なので、半球状の中に閉じ込められているように見える。
 そこには、扉のようなものは一切見当たらない。
(すぐ手当てをしなくては出血が……)
 焦る久居の目に、フリーの零した涙らしき雫が映る。
(涙が空中で止まっている!?)
 久居はその光景に、目を疑った。
(いや、涙だけでなく……)
 よく見れば、フリーの髪は風もない空間で、ふわりと広がっている。
 その髪で三つ編みを留めていたはずの筒状の装飾品は、砕け散った姿のまま、こちらも空中で動きを止めていた。
(まさか……この膜の中は……時間が止まっている!?)
 久居は、凸凹の一切ないつるりとした膜へ手を触れたまま、静かに息を呑んだ。
(これは、妖精の力なのでしょうか……)
 そう考えて、ハッと振り返る。
(リルなら何か知って……)