Evasion 1巻 和洋折衷『妖』幻想譚
菰野は義兄の刀を受け止める。金属同士がぶつかり合う音。
しかし、二度目は一度目とは違う音だった。
葛原の持っていた刀は、その手を離れ、吹き飛んだ。
それが落ちる音がする頃には、菰野の刃は葛原の首元にあった。
首に触れる直前でピタリと止められた刃。そこから伝わる僅かな冷気に、葛原は知らず震えた。
「な………………何故…………だ……」
震える声で、それでもどうしても、彼は問わずにはいられなかった。
菰野は顔面蒼白となった義兄を哀しく見つめて、彼の問いに答えた。
「私は、立場上……葛兄様に勝つわけにはいかなかったのです」
外へと駆け出した菰野の後ろで、葛原はガクリと両膝を付く。
(……何だと……?)
葛原は理解しきれなかった菰野の言葉を、もう一度反芻する。
(それは、つまり……)
理解する事を拒否しようとするように、頭がゆっくりとしか動かない。
葛原は、今まで一度も、菰野を疑ったことが無かった。
あの可愛い義弟が、自分に嘘をつくなど、あり得ないと心のどこかで思っていた。
……どうしてそんなに、信じてしまっていたのだろうか……。
(私は今まで……、本気を出してもいない菰野を倒して、勝った気になっていただけだと、いうのか……)
ようやく理解できたそれは、やはり、理解したくない事実だった。
「う……」
壁際で小さな呻きが聞こえ、葛原は我に返る。
壁に強か叩きつけられていた葵が、ふらつく頭を押さえながら、小柄な体を起こそうとしていた。
「葵! 兵を出せ!」
葛原は、震え出しそうな体を気取られないよう、大きく腕を振って指示を出す。
「菰野を絶対逃すな! !」
作品名:Evasion 1巻 和洋折衷『妖』幻想譚 作家名:弓屋 晶都