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Evasion 1巻 和洋折衷『妖』幻想譚

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六話『其々の失敗』



 静かな森の中を、手足まで黒尽くめの小柄な女性がふらつく足取りで進んでいた。
 息も上がっているのか、小さな肩が絶えず上下している。
 山を登り進むほどに、彼女の体調は悪化していた。
(いけない……。これ以上近付くと、山の気にあてられてしまう……)
 葵は、繰り返される目眩にふらつく頭を押さえて、その先へと意識を集中させる。
 この山を、自分よりも先に登って行った、自分よりも幼い二人の姿を思う。
(菰野様と久居様はご無事なのでしょうか……)
 あからさまに尾行を警戒しつつ山の奥へと進んでいった菰野と、それを気付かれぬよう慎重に追っていた久居。
 どう見ても挙動不審な二人ではあったが、その程度の不審では揺るがぬほどに、葵は二人が幼い頃からずっと、二人の日々を見守っていた。

 そんな二人が、自分のように体調に異常をきたしているのではと、山の奥へ不安を残しながらも、葵は元来た道を戻ることにして振り返る。
 登り始めた頃は何ともなかったはずだ。
 どこまでなら体調に異変をきたさずいられるのか、その境界を見極めるべく、葵は慎重に下山する。
 どうか、この体調不良を引き起こしている呪いが、死に至るようなものでないように。と祈りながら。
 震える手足は呪いによるものなのか、それとも呪いへの恐怖からなのかは、自分にも分からなかった。