Evasion 1巻 和洋折衷『妖』幻想譚
五話『束の間』
その森は、今日も耳が痛いくらいに静まり返っていた。
生き物の気配の無いそこは、こんな風に風のない日には木々の揺れる音もなく、自身の草を踏み分ける音と、衣擦れの音、呼吸と心臓の音までもがはっきり聞こえた。
菰野は、木々の隙間から陽の位置を見る。
太陽は真上に近く、彼女との待ち合わせにはまだ早かった。
(ここは、本当に静かだ……)
菰野は倒木の幹にもたれるように座り込むと、自身の膝を抱き抱えた。
(昨日までの事が、全て……。
夢だったんじゃないかと、思えるほどに……)
作品名:Evasion 1巻 和洋折衷『妖』幻想譚 作家名:弓屋 晶都