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Evasion 1巻 和洋折衷『妖』幻想譚

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 じゅうっと何かが焼ける音は、その場の全員に聞こえた。

「……う――」
 男子は目を見開く。煙の上がる自分の手を引き寄せ、掌を見るまでが、まるでスローモーションのようにゆっくりに感じられた。
「うわああああああああああああ!!」
 平和な村には似つかわしくない恐怖を孕んだ絶叫に、リルがハッと意識を取り戻す。
「手があああああ!!!」
 後ろの男子が、その手を覗きこみ「融けてる……」と呟いた。
「い、医者呼んでくる!!」
 もう一人の背の高い男子が、翅を翻して駆け出す。
 フリーは、リルの肩を掴んだ。
「行くよリル! 人が来る前に!!」
「で、でもガラス玉拾わなきゃ……」
「いいから早く!!」
 フリーは無事な方の手で弟の手を引いて、振り返らずに走り出す。
 リルは、散らばったガラス玉に名残惜しそうな視線を投げつつも、姉に従った。

 家まで一気に駆け戻ったフリーは、家の中にリルを入れると、戸の鍵を閉める。
 手が融けていると、言っていた……。
 それを思い返す度に、フリーは底知れない恐怖を感じる。
 必死で息を整えようとしているフリーに、リルはおずおずと尋ねる。
「フリー……、何があったの?」
 その言葉に、フリーは目を見開いた。
(え……!? リルは自分が何をしたのか……、分かってない……?)
 不安そうに、姉の言葉を待つリルに、フリーは何と答えるべきかと思案しながら、手を顔に近付ける。
「あぁ〜、えーと……」
 しかしいつもの癖で持ち上げた右手はズキンと痛み、傷口からはジャリッとガラス片の擦れる音がした。
「いった……」
「だ、大丈夫?」
 ジャリッという音は、耳の良いリルにも聞こえたのだろう。
 姉の痛みを思ってか、リルの薄茶色の瞳は潤んでいた。
 手の中に残ったガラス片を取り出す作業を思うと、フリーも憂鬱になる。
「とりあえず、リルはピンセットと虫眼鏡持ってきてくれる?」
「うんっ」
 タタタと二階に駆け上るリルの足音を聞きながら、フリーは水場へと向かう。
「まず洗った方がいいよね……。うわー……沁みそう……」
 水汲みポンプのハンドルを何度か押し下げると、水が流れ始める。
(きっと今頃、お母さんのところに人が行ってるよね……)
 フリーは、この村で、たった一人で自分達を守り続けている母のことを思う。
(あんまり……酷い事、言われてないといいんだけど……)
 冷たい水は、やはり傷口に沁みて、痛かった。