Evasion 1巻 和洋折衷『妖』幻想譚
四話『揺れる炎』
「お母さんっ」
フリーに呼ばれて、母が振り返る。
金に輝く母の長い髪が、ふわりと円を描くように揺れた。
「帯飾りの作り方教えて!!」
「突然どう……」
「今すぐっ」
フリーとリルの母、リリーは、娘に食い気味に言われて圧倒される。
「そうねぇ、ええと……」
リリーは、引き出しから細かく仕切りのされた箱を取り出すと、そこから一本、ガラス玉と紐で編まれた装飾品を手に取った。
「こんな感じのものでいいかしら?」
大きな玉が三つ、その上下にいくつか小さなガラス玉が並んだデザインは、シンプルで誰にでも馴染みそうだった。
「うんうんっ! これお母さんが作ったの?」
「ええ、そうよ」
リリーは、ほんの少し目を細めてそれを見ている。
その飾りは赤と茶色でシックにまとめられていた。
淡い金色の母には少し地味過ぎる気がして、一体いつ頃、誰のために作ったものかとフリーは一瞬気になったが
「じゃあ、まずは材料を買いに行きましょうか」
と言われて、そんな疑問は吹き飛んだ。
「やったぁ♪」
喜ぶフリーの背で、ぴょこっと、まだ伸びきらない翅が元気に立ち上がる。
あの日割れてしまった翅は、割れてしまったなりに、母が何とか形を整えて切ってくれた。
元通りの大きさになるまではもうしばらくかかるだろうけれど、フリーは、短い翅も身軽に動けて悪くは無いと思っていた。
「あ、このデザインなら男の子が付けても平気だよね?」
フリーがほんの少しだけ恥ずかしそうに尋ねる。
「ええ、問題ないと思うけど……どうして?」
リリーは、そんな娘が可愛らしくて、あえて尋ねてみる。
フリーはギクリと笑顔を引き攣らせて
「う、うまくできたら、リルにも作ってあげようかなー……とか……」
と答えた。
フリーの言葉に、奥の部屋からひょっこりリルが顔を出す。
「ボクを呼んだ?」
おそらく名前が聞こえて顔を出しただけのリルが、テンパっていたフリーにその頭を両手でがっしりと掴まれる。
「はわわわわわ……」
何かタイミングが悪かったらしいことを理解して、リルがじわりと青ざめる。
「呼んでないからね……?」
ミシミシと力が加わる手に怯えながら、リルは必死で頷いた。
作品名:Evasion 1巻 和洋折衷『妖』幻想譚 作家名:弓屋 晶都