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Evasion 1巻 和洋折衷『妖』幻想譚

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 久居は微笑んで、リルに言った。
「……リルの話を、もっと聞かせていただけますか?」
 リルは、一瞬驚いたような顔をして、それから嬉しそうに笑った。
「うんっ」
 目尻に残る涙の粒が、少年の薄茶色と一緒に日差しにキラキラと舞う。

「何話そうかなー、何か聞きたいことある?」
 ほんの少し照れ臭そうなリルに、久居が尋ねる。
「それでは……、妖精の寿命というのは、どのくらいなのですか?」
「えーと、長生きの人だと九十歳を超える人もいるくらい……だよ」

(やはり!!)
 久居は確信する。
 人間の間では、妖精は非常に長命な種族なのだとされていた。
 けれどそれは、人間がその代替わりに気付いていなかっただけなのだと。

「ボクはもっと長生きするかもって、お母さんが言ってたよー」
「それは、リルの父君が長命な種族だと言うことですか?」
「うん、お父さんはすごーーく長生きするんだってー」
 久居は、鬼という存在に思いを馳せる。
 昔話に出てくる鬼は、そのほとんどが筋骨隆々とした大男の姿で描かれていたが、目の前の少年は、それとはかけ離れた、線の細い儚げな印象だった。

「なるほど、それでリルは実年齢より幼く見えるのですね」
「うんうん」
「……と言うことは? フリーさんはリルと同い年には見えないと言うことで……?」
 久居はやっと気付く。
 自分の勘違いに。
「フリーはちゃんと十四歳くらいに見えるよー。背もボクよりこのくらい高くてー……」
 久居は、菰野がリルと同じくらいの見た目の妖精と会っているのだと思っていた。
 しかし、そうではなかった。
 菰野が頻繁に逢瀬を重ねている相手は、ほとんど同い年の少女だったのだと、久居はようやく気が付いた。
(……菰野様……!?)
 こうして、久居はまた、新たな心配の種を抱え込んだ。