狐鬼 第二章
34
「扨(さて)、申し訳ないが」
屋外(テラス)椅子から 立ち上がる
金狐が「先に 失礼する」と(エア)手綱を渡すべく、すずめに差し出す
(其の)差し出された(金狐の)空(から)の手を前に
すずめは訳も分からず(空(から)の手を)見詰めるが、くろじが透かさず 囁やく
(く)(受け取って受け取って(!))
(す)(ああはい(!))
然うして
すずめは(エア)手綱を恭しく受け取り 金狐の背中を見送る
傍らで 黒狐も(金狐の)後を追う事はしない(手綱の所為で←違う!黒狐)
追った処で 自分(黒狐)は邪魔になるだけだ
兄(金狐)は何故か 彼(あ)の「巫女」を気に入っている、気がする
然うして
(金狐と)入れ違いで 中座していた
はつねが戻って来るや 黒狐の目(眼)の前に長角皿(ちょうかくざら)に盛られる
稲荷寿司を どん!と 置いた
勿論、すずめにも
くろじと古着屋店主の前にも、どん!どん!どん!と 置く
「お腹 空かない?」
疾(と)うに 昼時は過ぎている
何なら御八(おや)つの時間に 食い込んでいる
「私は 空いた」
宣言する也(なり)
(金狐の)空(あ)いた屋外(テラス)椅子に腰掛ける
自身の前にも稲荷寿司(の長角皿(ちょうかくざら))を どん!と 置く
封を切る
使い捨て不織布手拭いで 両手を拭(ぬぐ)う
はつねの様子を 黒狐は顔にこそ出さないが興味津津、眺める
そりゃそうだ
麦藁(ストロー)の使い方すら知らない 黒狐なのだ
はつねとしても 何かしらの意図があるようで
黒狐の視線を感じながら 其れは其れは 手本のように丁寧に続ける
然うして
「頂きます」と 合掌して 稲荷寿司をぱくつく
はつねに、くろじも古着屋店主も倣(なら)うので
すずめも「頂きます」と 言うと(傍らの)黒狐にも「どうぞ」と、促(うな)がす
顎を引く 黒狐は(無事)使い終わった不織布手拭いを丸めて(卓子に)放る
長角皿(ちょうかくざら)に自身の鼻を近付け 嗅いだ後
一口で食べ切るには稍、大きい稲荷寿司を一つ 摘み上げて口に突っ込む
余程、美味しかったのだろうが
次次 稲荷寿司を口に突っ込んでいく(丸呑みしていく)様(さま)を見遣る
くろじと古着屋店主は 開(あ)いた口が塞がらない
すずめに至っては改めて「此れ(丸呑み)が「神狐」の食事作法」だと 納得し
はつねは はつねで先程の、金狐との会話を振り返える
「はつね」
「馳走(ちそう)になった」
自分、名乗ったのかな?
其れとも他の誰かが教えたのかな?と 思いつつも
ならば 相手(金狐)にも名乗って欲しい
現に 黒狐には名乗れと迫った、はつねだったが何故か金狐には言い難い
、何故かしら?
若干、首を傾げるも
悠悠と ログハウス喫茶店(カフェ)、木製出入口扉から出て行こうとした
金狐に「待って待って」と、声を掛けて 引き留める
カウンター越し 風呂敷弁当(二人分)を差し出す
「これ!」
「良かったら あの娘(こ)と一緒に食べて!」
飲み物なら(部屋の)冷蔵庫にあるから!と 付け加える
はつねに金狐は琥珀色の眼を細めて 笑う
「(中座して)何をしているかと思えば」
「此(こ)れ(風呂敷弁当)を作っていたのか?」
なんか 普通に上から物を言う
「人(金狐)」みたいだけど 何故か許せる
然う 諦める(笑)
はつねが右 蟀谷(こめかみ)を ぽりぽり掻いて 答えた
「貴方(あなた)も」
「あの娘(こ)も、お腹空くでしょう?」
頷く 金狐が礼を言う
「有難い」
「「巫女(みこ)」も喜ぶ」
みこ、ちゃん?
あの娘(こ)、みこちゃんって言うんだ?
毎度の事ながら
興味半分、勘繰(かんぐ)る自分を恥じつつも
御節介(おせっかい)な性分故、放って置けない気持ちもある
勝手に思い
勝手に想像した結果、考え(妄想)に耽(ふけ)る
この人と
みこちゃんの関係は、強ち「兄妹」という 可能性もある?
はつねが 然う思うのも仕方がない
巫女 (ひばり)は目の覚めるような 美しい少女
目の前の金狐に至っては 其の美しさは、此の世の枠の外
然うなると
はつねの中で、黒狐の存在に疑問符が浮かぶ
本当に この人の「弟」なの?
本当に みやちゃんの「友達」なの?
徐(おもむろ)に 腕を組む
そうよ
そうよね
やっぱり「知り合い」が 妥当なのかしら?
容易く 彼女 (はつね)の思考を其の眼に反映(うつ)す
金狐が小さく噴き出し 提案する
「俺が 言うのも何何だが」
「彼(あ)の さ狐が」
「 みや狐殿の「友達」と 名乗るのには納得がいかない」(←嫉妬丸出し)
「、え?」
余りにも 時機(タイミング)良く
余りにも 幼稚な言い分に、はつねは聞き返えす
「だが」
黒眼鏡(サングラス)の奥
一呼吸 置く、金狐が 琥珀色の眼を伏せる
「俺が 納得いかないだけで」
「彼(あ)の さ狐も」
「みや狐殿も「目の寄る所へは 玉も寄る」仲なのかもしれない」
一瞬、瞬目(しゅんもく)する
、めのよるところへは?
、たまもよる?
、それは「類友」って、事?
金狐の 言葉を反芻して
馴染みのある 言葉に変換する
はつねの思考を受けて金狐が愉快そうに 笑った
「其れを 見つけてくれないか?」
「俺の 為にも」
「はつねの 為にも」
然うして
最後の一つを摘み上げる前に
不図(ふと)、長角皿(ちょうかくざら)の端に乗っかってる
新生姜の甘酢漬けに気が付いて訊(たず)ねる
「何だ 此(こ)れは?」
「え?、「ガリ」?」
(黒狐に)訊(き)かれて 遡(さかのぼ)る
記憶に すずめも黒狐の、次の行動を食い入るように見詰める
途端、立ち上がる
「待って、」
「待ってて、さこちゃん」
はつねが ログハウス喫茶店(カフェ)店内に 引き返えす也(なり)
「何か」を両手で慎重に抱えて 急ぎ足で戻って来た
「、さこちゃん!」
「、お寿司には「ガリ」そして「アガリ」!」
其 (はつね)の 様子に
(なんで力説?)と、くろじと古着屋店主が顔を見合わせる中
はつね同様、すずめも黒狐の 次の行動に目が離せない
きっと、はつねさんは
きっと、はつねさんなりの「納得」が 欲しいんだ(!)
「アガリ」?と、首を捻(ひね)る
黒狐の前に温(ぬる)めの粉茶を並並と注(そそ)いだ 湯呑茶碗を置く
本来なら 熱めが最上(ベスト)だ
だが、此の後の事を考えるのならば 温(ぬる)めが最上(ベスト)だ
「そう「アガリ」!」
はつね(と、すずめ)が見守る中
取り敢(あ)えず 馴染(なじ)みのない「ガリ」とやらを食ってみるか、とばかり
一纏(ひとまと)めの「ガリ」を摘(つ)まむ也(なり)、一気に口の中に放り込む
ヨーグルト(紙容器 事(ごと))然(しか)り
キウイフルーツ(皮 事(ごと))然(しか)り、丸ごと飲み込む 白狐と重なる
すずめが「あ、」と 声を上げた瞬間、黒狐が盛大に咽せ込む
「さこちゃん!、アガリ!」
素早く (黒狐の)目の前に差し出される
はつねの手 事(ごと)、湯呑茶碗を鷲掴みして 飲み干す