狐鬼 第二章
「行きましょう」と、ひばりも立ちあがろうとする
いやいやいや!
そりゃ、行きたいなら(無理には)止めないけど!
言葉を濁す すずめを押し退ける(あう!←すずめ)金狐が止める
「巫女には 休息が肝要(かんよう)だ」
淡淡な口調だが穏やかに
其れでも異議は認めぬ 物言いに、ひばりは素直に従った
ひばり自身、置いて行かれるとは思っていない
思っていないが(自分が)万全なら
すずめの言葉通り 今直ぐにでも行きたかった、だけだ
「、あの、あの!」
「、お土産 持ってくるから!」
すずめの(気遣い故の)提案に 笑顔でお願いする
ひばりが 其の手を借りて立ち上がるも突如、顔を歪める
力なく蹌踉(よろけ)る
ひばりの身体を支える すずめが(現状を)伝える
「、裸足だったから 傷が酷いの」
ああ、と 思い出したように零す
促されるまま寝台(ベッド)に腰掛ける ひばりを見遣る
すずめは 思う
(足の)痛みに気付かない程、気を張っていたのだろう
なんて 巫女なの
なんて 巫女なのだろう
包帯 (ぐるぐる)を巻く
両足を何とも言えない表情で抱え込む
ひばりを前に すずめは泣きそうになるのを堪える
其れでも油断して鼻をぐすぐす 鳴らし始める
すずめを余所に 金狐の手が其 (ひばり)の足に触れる
「、なん、ですか?」
ひばりではなく
すずめが(筒抜けを)警戒しつつ 金狐に訊(たず)ねる
(金)「「手」を 当てている」
(す)「「手」を、当てて?」
(金)「然う」
「「手」を当てて「手」当をしている」
何とも呑気な
すずめと 金狐の遣り取りを和(なご)やかに眺めている
ひばりが 徐(おもむろ)に気が付いた
(ひ)「、痛くない」
(す)「、え?」
(ひ)「、痛くないです(!)」
不可思議な現象に
「此れぞ、神力」等と甚(いた)く、感動する
ひばりが 自身の足元に置かれた金狐の手事、自分の手で抱え込む
其 (ひばり)の手に
当時 (むかし)は飛び上がる程、辟易(たじ)ろいだが
と、心中 懐かしむ金狐が 余裕の笑みで答える
「御茶の子さいさい だ」
然う 宣う金狐の言葉に
すずめの中で唐突に疑問が浮かび上がる、と 間髪容れず
非正規ルートからの「答え」が返ってくる
「大きめの 怪我や病気は流石に 無理だな」
「そうですよね」
「私、肋骨に罅(ひび)が…」其処迄、言って口を噤(つぐ)む
向かい合う
金狐の 琥珀色の眼を見据える
圧(へ)し口をしたままの すずめに「すまん」と(金狐が)頭を下げた
瞬間、部屋の片隅で空気と化す
黒狐が此処ぞとばかり、最大アピールで噴き出す