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狐鬼 第二章

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空と海の境界線
水平線の遥(はる)か、ひかめく朝日を背にする

白狐は

一旦、戻ろう
一旦、すずめの元に戻ろう

人形(ひとがた)に姿を変えるも項垂(うなだ)れたまま

共に、ひばりを探すと

ちどり (+ひく先輩)を失い
親 (+しゃこ)を失い、家を失いながらも

共に、ひばりを探すと
すずめは言ってくれたのに今や 媒体(あるじ)としての用を成さない

ひばりこそ「本物」

故に 巻き込む訳にはいかない
故に 連れて行く訳にはいかない

分かっていたのに
仮初(かりそめ)の巫女 だと分かっていたのに

途端、髪を掻き毟(むし)りたい衝動に駆られるも寸前で思い留(とど)まる

「下(くだ)らん」と 吐き捨て
其れでも一旦、すずめの元へと一歩 足を踏み出した瞬間
(自身の)短髪の黒髪が飛禽(ひきん)が羽搏(はばた)くが如(ごと)く、一気に広がる

顔に被(かぶ)る
腕(かいな)に掛かる (本来の)白髪を繁繁 見詰めて、笑みで唇を歪める

強大なる「闇」の気配に「人間」の振り等(など) 到底、無理なのだ
牙を剥(む)く 其の顎が獣のように音を立てる

其(そ)れ程か?
何(ど)れ程か?

「ならば 此の身を呉れてやる」


上も下もない 漆黒の中

其処だけ
此の部屋だけ

僅かな光が差し込む 箱庭のように存在する

多少、強張(こわば)る身体で寝台から起き上がる
少女を(自身の)尻尾で支えつつ
頭突き(え?)で漆黒の仏蘭西(フランス)窓を押し開(あ)ければ
延延、漆黒の庭が広がる

何故、庭だと思うのか
其処には庭(闇)を眺めるには丁度いい(笑) 四阿(あずまや)があるからだ

然(そ)うして

縁台に腰掛ける 傍ら
白狐は少女の寝間着の肩に持参した白装束を羽織らせる

斯(こ)ういっては何(なん)だが
(獣の)毛皮の何処から取り出したのか? と、首を傾(かし)げる
少女の死角から其の背中を(白狐の)尻尾が とんとんっと叩く

当然 振り返える少女の背後には「闇」しかない
多少なり眉を顰(ひそ)めるも何事もなかったように正面の「闇」に向きなおる
傍(かたわ)ら「お座り」して素知らぬ振りを装(よそお)い 心の中で微笑(わら)う

白狐が再度、とんとん しようとした瞬間「待ってました!」と ばかり
少女の手が幾つにも分かれる(白狐の)尻尾の一つを掴み上げる

「ヤッタ!」と いう表情の少女と
「ヤラレタ!」と いう表情の白狐が顔を見合わせた結果、爆笑する

ふさふさの毛皮同様
ふさふさの尻尾を胸に抱(いだ)き けらけら笑う

幼き日のように甘えてしまう
幼き日のように甘えてしまうのは 白狐の所為(せい)だとばかり

ひばりは、けらけら笑っている

実際、此の状況では空元気だ
未(いま)だ ふらつく少女自身、分かっている

両手で抱き抱える
尻尾に顔面を埋(うず)める少女は瞼を閉じる

みや狐は変わらない

幼き日のように
幼き日の 自分を守るように此処(そば)にいるのだ

「昔」も
「今」も、此の「先」も

其れは 変わらない
其れは 変わらないのだ

其れでも

みや狐を待っている
みや狐を待っている「巫女」がいるのだ

然(そ)して 当たり前だが

自分 (ひばり)の思考は
自分 (ひばり)の感情は
自分 (ひばり)の行動は筒抜けなのだ

軈(やが)て (気)力を振り絞って立ち上がる
心 許(もと)ない足取りで(漆黒の洋館の)仏蘭西(フランス)窓へと引き返えす
少女の後ろ姿を追えばいいものを 如何にも追う事が出来ない

出来ないけれど
其の 後ろ姿を見詰める白狐の眼が 少女を出迎える「影」の姿態(したい)を捉える

思わず(自身の)眼を凝(こ)らす白狐が立ち上がり掛けた
次の瞬間「 うけけ〜! 」と、第三眼の(耳障りな)哄笑が闇に木霊する

姿 なき声に四方八方、眼光を飛ばすも
何時の間にか自身(白狐)の前に悠悠、少年が和(にこ)かに佇(たたず)む

「ごめんなさい」
「覗(のぞ)きは 僕の趣味なんだ」

真逆 (まさか)、彼(あ)の場面で第三眼が笑うとか予想外
心底、場都合悪るく謝罪(?)を述べる 少年を余所に

「 悪趣味でごめんね〜 」

と、悪びれない第三眼は笑いが止まらない

「 打明(ぶっちゃけ)、其処に「愛」はないのね〜 」

身も蓋もない 言葉に
抑、あったのかも疑問だ、と 後悔する
抑、是が非でもすずめを始末しなかったのか、と 後悔する

溜息すら出ない 少年が
前傾姿勢で、戦闘態勢を取る白狐と対峙する

「すずめじゃないと、駄目なの?」

全身の毛(皮)が逆立つ
怒りを表わす白狐が口元を吊り上げ一歩、前に出る

当然、迎え撃つ
少年も退(ひ)く処か一歩、前に出る

「すずめの「珠(たま)」だけは絶対、嫌だよ」

途端、剥き出しの牙を鳴らす
白狐が顔を歪めて 眼の前の少年に問い質(ただ)す

「其れ程(ほど)」
「其れ程(ほど)、白紙にしたい「願い」を何故 口にした?」

然(そ)う 問われても
少年自身、口にした覚えはないのだから答えようがない

答えようがないが

「僕も 幼かったからね」

幼さ故の 失敗
幼さ故の 失態、と 少年は自嘲気味の笑みを浮かべる

知ったことか とばかり

「ない」
「白紙に出来る「願い事」等(など)、ない」

一刀両断する
白狐の言葉に眼玉を丸くする 第三眼が引き笑いを披露する

釣られる白狐も大口を開けて笑いだす
唯 一人、面白くもない少年が 其の首根(くびね)っ子(こ)に食(く)らいつく

「化かそうが」
「誑(たぶら)かそうが お前の勝手だけど」

「「神狐」が嘘を吐(つ)くなんて 滑稽だね」

「其れ程、」後(あと)の言葉は
少年が意図的に濁(にご)したが白狐には確(しか)と聞こえた

(すずめを救いたいの?)

「絶対」はない
「絶対」は此の世には ない

背に腹はかえられぬ

少年も
白狐も 百も承知二百も合点

「夢話 だ」

少年の 黒目勝ちというよりも
漆黒の闇の如(ごと)く 覆(おお)われた眼(まなこ)を覗き込む
白狐が動じず 続ける

「誰も彼もが 耳にしたが」
「誰も彼もが 眼にした事はない」

「其の意味が 分かるか?」

「子ども扱いしないでよ」と 言いつつ
首を傾(かし)げ考える少年を余所に 其の額(ひたい)に陣取る
第三眼が眼球を ぐるりと引っ繰り返えす

何となしに見遣る 白狐の目の前で
揶揄(からか)っているのか?と 疑う程、繰り返えし引っ繰り返える

少年は少年で第三眼の所業に
気付いてないのか
気付いていても然程、興味がないのか

延延、白狐の「問い」の 答えを探している様子だった

事「願い事の無効(or白紙撤回)」に関して
少年は頗(すこぶ)る 自制がなくなる

彼(か)の夜の

掻き上げる頭髪を勢いよく 引き千切る
雄叫びのような笑い声を上げ続ける 少年の姿を思い浮かべる

だが

此れ程迄に 幼かったか?
此れ程迄に 此の少年は幼かったか?

「 うけけ…  」

唐突の 予期せぬ第三眼の笑い声に
不覚にも余所事を考えていた白狐は 本筋を思い出す
作品名:狐鬼 第二章 作家名:七星瓢虫