小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

狐鬼 第二章

INDEX|1ページ/29ページ|

次のページ
 

1



「競馬」とは
騎手が馬に乗って走って着順を競い合う「競技」だ

其の着順を予想し金銭を掛ける事で
「競技(スポーツ)」としての一面、「賭博(ギャンブル)」としての一面が楽しめる

然(そ)して王室所有の華麗なる
社交場としての一面があるのも「競馬」だ

言わずもがな、競走馬は生き物だ
見た目が違えば性格が違うのも、言わずもがな

因(ちな)みに毛の色は八種類の分類され真っ白な毛色は「白毛」と呼ばれ
美しく可愛い事もあり白毛の馬の「愛好者(ファン)」は多い

関係ないが白毛の馬を見ると
何故か白狐は今は短髪の黒髪をウザったく掻き上げる

競走馬が「初登場(デビュー)」するのは早くて二年

生産牧場で種付け、育成
厩舎に入厩して調教師を始め、調教助手
厩務員に「初登場(デビュー)」する其の日迄、面倒を見てもらう

「馬主」は誕生して入厩する前に
競りに掛けられた馬を落札し、資金を出した結果
競走馬に成り得る訓練や食事の管理が施される

「初登場(デビュー)」後、騎乗するのが騎手だ
競馬は「馬七:騎手三」と、言われるくらい馬の力が大きい

出走(レース)前、馬の状態を観察出来る下見所(パドック)を訪(おとず)れる

何も競馬玄人に雑(ま)じり
競走馬の歩様(ほよう)を確認して出走(レース)予想に生かす訳ではない

単純明快
彼(馬)等と会話をする為だ

「今日は何奴(どいつ)が一着だ?」

単刀直入に訊(き)けば
彼方(あちら)此方(こちら)から嘶(いなな)きが上がり
彼(馬)等を先導(リード)する、厩務員達が吃驚(びっくり)した顔を白狐に向ける

毎度(まいど)、此(こ)の青年が下見所(パドック)に現れる度
競走馬達は何時(いつ)にない反応を示す

好い加減、訝(いぶか)しがるも件(くだん)の青年は「何処(どこ)吹く風」だ

[俺だな]

[何何、私]

[今日は乗り気じゃない]

[御前、見た?]

[見た見た、花が咲いてた]

[何、其(そ)れ]

[え、違うの?]

[勝つのは当然、僕さ]
[何故なら僕の父さんは・・・]

[出たよ]
[親の七光り改(あらた)め、芦毛(あしげ)の七光り]

競走馬に於(お)いて血統は非情に重要な要素だ

不図(ふと)、眼の前を物憂げな表情を浮かべて横切る
黒鹿毛(くろかげ)が是又(これまた)、物憂げな口調で語り掛けた

[「御願いします」と、言われたら考える]
[嗚呼(ああ)、飽(あ)く迄、考えるって事ね]

伊達(だて)眼鏡越し、翡翠(ひすい)色の眼を細める白狐が顎を刳(しゃく)る

すずめにも指摘されたが思いの外(ほか)、眼の色を弄(いじ)るのは難しい
出来る「者」を一人、人伝(ひとづて)に聞いたが
哀(かなしい)哉(かな)、自分とは格が違う

故(ゆえ)に伊達(だて)眼鏡は苦肉の策だ

其(そ)れは然(そ)うと俺の知っている「黒毛」は程程、可愛げがあるのだが
御前の其(そ)れは丸(まる)で「金狐(きんこ)」の様(よう)だ(笑)

等(など)と、旧友を懐かしむ白狐の耳に芦毛(あしげ)の怒声が届く

[僕を侮辱するのか?!]
[僕を侮辱する事は延(ひ)いては父さんを・・・!]

[はいはい]

適当な返事をしつつ、下見所(パドック)を一足先に後(あと)にする
栗毛(くりげ)が止(よ)せば良いのに捨て台詞を吐(は)いた

[精精(せいぜい)、偉大な「父さん」の為にも一勝はしてやれよ]

[!!きいいいいいい!!]

十人(馬)十色だ

「馬七:騎手三」とは言うものの
競走馬の能力を最大限に引き出すのは偏(ひとえ)に騎手の手腕に掛かっている
らしい、と顔馴染みの「常連」に御高説を賜(たまわ)ったのは記憶に新しい

人馬一体

強い「馬」が存在する様に
強い「騎手」が存在するのも道理だ

何周目か
再び、眼の前を横切る黒鹿毛(くろかげ)と目と眼が搗(か)ち合う

抑(そもそも)、競馬予想に「正しい」予想方法等ない

馬相手
「常連」相手、世間話をして日銭を稼げれば上上
事実、此(こ)の関わり合いが面白くない、と言えば「嘘」になる

「兄(あん)ちゃん、何奴(どいつ)に賭ける?」

何時(いつ)しか隣に陣(じん)取(ど)る「常連」に驚きはしないが
気配を感じ取れない愚鈍(ぐどん)な自分に多少、焦る

「下」に居過ぎた所為(せい)だ

其(そ)れでも

『巫女(みこ)を追いたいのに』
『巫女(みこ)を追えないのは白狐の所為(せい)じゃない』

然(そ)う思ってくれた、すずめが俺の帰りを待っている

「分かった」
「御前に御願いするから、頑張ってくれ」

途端、豪快にヘッドバンギングを噛ます黒鹿毛(くろかげ)の行動に
「常連」も厩務員も目を丸くして青年を見遣るが矢張り、我関せずの姿勢だ

踵(きびす)を返す、白狐が

「何事もなく還(かえ)って来い」

我ながら安っぽい言葉だが
口にした瞬間、下見所(パドック)内の競走馬が一斉に嘶(いなな)いた

「!!合点(がってん)承知(しょうち)の助(すけ)!!」

結果は芦毛(あしげ)の鼻差勝ち

「!どんなもんだい!」的に鬣(たてがみ)を靡(なび)かせ、ウイニングランを披露する
其の姿を一瞥(いちべつ)し、観覧席(スタンド)を立つ

「兄(あん)ちゃん、残念だったなあ」

如何(どう)にも笑顔だが
如何(どう)にも立ち塞(ふさ)がる態度に白狐が訊(たず)ねる

「貴方(あんた)、黒鹿毛(くろかげ)に賭けたのか?」

其(そ)の問い掛けに「常連」は「当然だろ?」と、頷きながら聞き返す

「兄(あん)ちゃん?」
「兄(あん)ちゃんもだろ?」

「俺?、俺は芦毛(あしげ)に賭けたよ」

「?!はあ?!」

素頓狂(すっとんきょう)な声を出す「常連」の気持ちは、斯(こ)うだ

白狐の「予想」に便乗した挙句(あげく)
外(はず)れ馬券を買う羽目(はめ)になったのは当然、自己責任
其れでも謐(ぼや)きの一つも聞いて欲しかったが真逆(まさか)の「芦毛(あしげ)買い」

仕方なく
言葉を失ったままの「常連」の脇を会釈(えしゃく)して通り過ぎる

黒鹿毛(くろかげ)には悪いが

「俺」の為に頑張る御前よりも
「父親」の為に頑張る、芦毛(あしげ)の方が強いだろ

なんという言い草

黒鹿毛(くろかげ)が聞いたら怒りで卒倒しそうな屁理屈だが
「次回は賭ける」と心中、謝罪する白狐の足元

散らばる外(はず)れ馬券に紛(まぎ)れて転がる新聞を見遣れば
小さい記事が眼に飛び込む

『未(いま)だ行方不明の学生、男女、失踪(しっそう)から二か月』

彼(あ)の日、すずめに頼まれて
ちどりの「身体」を探したが結局、見付けられなかった

ひく先輩とやらも同様だ

すずめには言えないが
其(そ)の身体は輪廻(りんね)の輪を外(はず)れて何処(どこ)ぞの闇の中なのだろう

作品名:狐鬼 第二章 作家名:七星瓢虫