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バレずに済めばいことだもの

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さあ前からクルマが来たぞ。そこだ、ぶつかれ! あ、向こうが避けやがった。運のいいやつめ。でも今のヘッドライトで目が眩んだぞ。きみ、よく目が見えないんでやんの。だからそのまま突っ走ってだな、ガーンと……こないな。何やってんだ。

交差点だ! 赤信号。よし行け。横からトラックが……と、ダメだ。かすりもしねえ。あのデカいのにやられたら絶対ペシャンコだったのに。

――と、なんだか向こうから、きみより凄いスピードでカッ飛ばしてくるやつが来たぞ。あれもきっと酔っ払いだ。まとめてドカンと――そうだ、死ね!

アッアッ、今いま、もうちょっとだったのに! なんで当たらねえんだよ! マジメにやる気あんのかお前ら。カネ返せ。も一度戻ってやり直せ。こんなんじゃ彼女の家に着いちゃうぞ!

って、もうすぐじゃんか。ヤバい。ヤバいよ。着いちゃうよ。惨劇の幕が開いちゃうよ。どうするんだよ。『ウギャーッ!』とか、『ギョエーッ!』とかいうのを書くのはあんまり気が進まないんだけどな。

わっ、なのに、とうとう着いちまったよ。どうするんだ。クルマを止めた。エンジン切った。きみはフラフラと降り立つね。バナナなんか落ちてねえかな。足滑らせてスッテンコロリン頭ぶつけて死なねえかな。

いかん、ダメだ。彼女の家の前まで行った。また表札がデカいんでやんなあ。カーナビがなきゃこんなバカここへ来ることもできないのに、わざわざ見やすくしてどうする。防犯意識がなってないぞ。今どき全員フルネームで、ダンナが○○、妻が○○、子が長男は○○でその妹が○○と名前ズラズラ並べやがって。殺すつもりで押し入ってくるやつが見りゃ、『この家には四人いる』と教えるようなもんじゃないか……。

って、待てよ。四人家族? きみは思った。彼女に兄貴がいるなんて……。

そんな話は聞いてない? いやいや、きみは聞いてるよ。彼女は何度も話していたというのに、きみが全然頭にとどめてなかっただけさ。

さあどうする。この家は四人家族なんだ。彼女ひとりを殺すってのはいいとしよう。良くないけれど、いいとするよ。女ひとりを殺すのは実行面に関する限りはそう難しくないだろうからな。

だがこの家は四人家族だ。彼女の親と、兄貴までも殺すのか? やるとして、きみひとりでできることか?

おっ、どうやら、思い出してきたようだな。そうだ、『彼女に兄がいると聞いたような気もする』って? 何が気もするだキモワルタマタマソーセージ。『家に挨拶に来い』というのを逃げ続けて来たくせに。

今日だってきみ、急な出張で今アメリカにいるんだなんて彼女に電話で言ってただろうが。まさか忘れてやしないよな。

って、忘れてるよなあもちろん……、おや、思い出してきたかな。そうだ、アメリカで思い出した。確か彼女の兄貴って、結婚して家を出て今はアメリカにいるんじゃなかったかって……?

うん、確かにそう聞いた。この家はいま四人じゃない。三人家族だ!

ちぇっ、思い出さなくていいことを……ああ、そうだ。自分に都合のいいことにはきみは記憶力があるね。そう、彼女の家は今は三人家族。まとめて殺すにいちばん厄介になりそうな長男つまり彼女の兄は妻子とアメリカ在住で、今は同居していない。

ということは、いけるんじゃないか? きみは思った。敵はいい歳のおっさんとおばちゃん。やってやれないことはなかろう。天は我に味方した!

味方したのは悪魔だろうな。きみはドアチャイムを押した。

ピンポンと鳴ってしばらく後、「はーい」という声とともにドアが開く。出てきたのは彼女の母親と思しき婦人。

きみのことを上から下まで見て言った。「えーと、どちら様でしょう?」

ジャージの上下に、サンダル履き。きみってどこのどなた様だ。

「あ、いえ、その」

名前を告げると、相手は驚いた顔をした。

「えっ、それじゃ」

「はい。まあ、そうです」

きみはどうしようと思った。この女を殺すべきかな? でも何も持ってない。飛びかかって首を絞め――たらバタバタ暴れるだろうな。ダメだ。包丁でも持ってくるべきだった。

「ちょっと待ってください」

言われてドアをバタンと閉められてしまった。アッと思ったがもう遅い。きみは立ち尽くすのみだ。

ううむ、一体どうしたものか。別に鍵を掛けられたようすもないが……。

ドアスコープを覗いてみるがもちろんなんにも見えはしない。もうやめて帰ろうかな、ときみが思いかけたとき――、

バーン!とドアが開かれて、きみは危うく弾き飛ばされるところだった。

「おお、よく来たな。上がってこい。遠慮はいらんぞ」

出てきたのは彼女の父親らしき男だ。しかし、どうやら酔っ払ってる。

「うん、よく来た。アメリカに行ってたんだって? 明日の式に間に合わないかもしれないと聞いて心配してたんだぞ」

「ううう」

と言った。そうなんだよなあ。酔って忘れていたけれど、そんなふうにきみは彼女に言ってたわけだ。今日一日だけ逃れようとしてさ。

「ご心配おかけしました」

「よく早く帰ってこれたな」

「はい、その……ジェット気流のおかげで」

そうかそうか、と言いながらお父さんはきみの背中をバンバン叩く。

「でもちょうどいいとこへ来たな。みんな集まってるとこだから」

「は?」

居間らしき部屋に通された。そこできみが見たものは――。

「紹介しよう。まずこいつがおれの妻だ。これからは君の義理の母だな。で、こっちが長男。いまアメリカに住んでるんだが、明日のために帰ってきたんだ。これがその嫁さんで、こっちが子供。歳は今――」

「ファイブ」とその子が言った。

「今よっつだ。こっちがおれの両親で、これがその上のばあさんだ。君には義理のひいおばあさんということになるのかな。今年で九十八になる。それからこれはおれの兄貴夫婦で、こっちは姪っ子。娘と同い歳なんだ」

一族郎党連(つら)なっている。きみはやっぱり相当に運が悪い人間なのかもしれないな。なんとこれから十二人殺さなければならないんだ。